あなたの家族になりたい

 夕方、時間はギリギリだったけど、ビュッフェの予約に間に合った。

 澪は目を輝かせてキョロキョロしている。


「瑞希さん、チョコがダバーってしてます」

「チョコレートファウンテンな。隣に置いてあるバナナとかマシュマロつけるんだよ。いちごもある」

「……これ、全部食べていいんですか?」

「好きなだけ食えよ」

「ここが天国……?」

「大袈裟だろ。いや、わからんでもないけど」


 はしゃぐ澪と一緒に、片っ端からデザートを皿に載せる。

 昼飯を食い損ねていたから、つい取り過ぎる。

 澪は量は食わないけど、一口食べては歓声を上げた。


「瑞希さん、これ、美味しいです」

「そらよかった」

「わ、こっちは見た目より苦いですね。でも後味がすっきりしてて美味しい」

「お、ほんとだ。食いやすいな」

「そうですか? 家でも作ってみますね」

「楽しみにしてる」


 澪は何を食べても美味しいと言うけど、ちょいちょい、それが何かわからないとも言う。

 その度に食材の名前と料理の名前を教える。

 俺だって詳しいわけじゃねえのに。


「……お前の母親は馬鹿だな」

「な、なんですか、いきなり……?」

「澪は何食ってもこんなに喜ぶのに、それをしねえで、かわいいとこ知ろうともしねえで、馬鹿だと思う」

「わ、私のことかわいいって言うの、瑞希さんだけです……」

「別に、俺だけが知ってりゃいいだろ」


 澪は顔を真っ赤にして俯いた。

 皿が空いたので立ち上がると、澪が赤い顔のまま俺を見上げる。


「何か、取ってこようか?」

「えっと、じゃあスープをお願いします。そろそろ、しょっぱいものも食べたいです」

「はいよ」


 頼まれたスープと、自分の追加のデザートを持って席に戻る。

 澪は「ありがとうございま……」と言いかけて止まる。


「瑞希さん、それなんですか?」

「あんみつ」

「どこにあったんですか……私も取ってきます……」

「右奥。後で一緒に行く」

「ありがとうございます……!」


 思わずスマホを出して、写真を撮ってしまった。

 澪は目をパチパチさせている。


「つい、撮っちまった。……かわいかったから」

「そんなこと……ないと、思うんですけど」

「あるんだよ」


 藤乃が花音にやたら「かわいい、かわいい」と言う理由が分かってしまった。

 あー、やだやだ。あんなキザ野郎にはなるまいと思ってたのに。