あなたの家族になりたい

 つないだままの手を引っ張って、澪をベッドに転がす。

 手を離そうとしたら嫌がったけど、無理やり離した。


「ちょっと待ってろ」


 着ていた服をすべて脱いで、転がったままの澪に覆いかぶさる。

 額、目尻、頬と順番に口付けて、唇に触れるだけのキスをする。

 薄暗い部屋の中で、澪がどんな顔なのか分からないけど、とにかく緊張して固くなっているのは分かる。


「澪」

「ひゃっ、はいっ」

「あー……緊張すんなってのは無理だと思うけどさ」

「……はい」

「慣れてないのはわかってるから、適当にしとけ。そんなことで呆れたり怒ったりはしないから」

「……はい」


 手探りで澪の手を探してベッドに押し付けるように指を絡める。

 何度も浅いキスを繰り返して、澪の体の強張りが解けるのを待つ。

 慣れてきたら、ゆっくり唇を割って舌を絡める。

 澪は息継ぎもまともにできないから、すぐに息を切らして、ぜえ、はあ言っている。


「……瑞希さん」

「ん?」

「私も、脱ぎます」

「はいはい。俺がやるから、おとなしくしとけ」

「ん……」


 珍しく、少し不満そうな声が聞こえて、吹き出しそうになったけど、笑うとたぶんまたガチガチになるから堪えた。

 パジャマを脱がして横に寝転がる。

 抱き寄せたら、おずおずと背中に腕が回された。

 ……半年前には、考えもしなかったことだ。


「澪」

「……はい」

「お前はかわいいな」

「え……どこがですか……?」

「教えねえ」


 澪が何か言う前に口を塞いだ。

 擦り寄ってくる様子が子猫みたいで、日にかざしたら透けそうな女が、ちゃんと温かい。

 そのことでひどく安心した。

 少なくとも擦り寄りたいと思うくらいには頼られてるらしい。

 抱き寄せた背中は細くて薄くて、力を入れたら折れそうだ。

 なのに固いわけじゃなく、どこを触っても柔らかかった。


 ふと思い出して澪の手を取る。

 カーテンの隙間から差す月明かりに照らすと、手のひらに小さなアザができてた。

 昼間、爪が食い込んだ痕がまだ残ってるなんて。


「……明日、出かけたときにハンドクリーム買う」

「ハンドクリームですか?」

「クリスマスに俺があげたやつ、もうないだろ」

「……はい」

「それに、こんなしょうもない傷、残さないでほしい」


 ムカついたから、手のひらに吸い付く。

 アザが少し大きくなった。

 うん、これでいい。

 こいつに傷を残すのは俺だけでいい。