あなたの家族になりたい

 引きずられるように車に戻り、うとうとしてる間に家に着いた。


「瑞希さん、おかえりなさい……!」


 玄関の扉を開けると、パジャマ姿の澪が出迎えてくれる。
 
 ……もしかして、待ってたのか?


「遅くに悪いね」


 藤乃が俺を玄関に座らせると、澪が横にしゃがむ。

 「ただいま」って言うと、「おかえりなさい」って返してくれて、なんか嬉しい。


「あの……瑞希さん、大丈夫ですか?」

「ちょっと飲みすぎただけ。ほとんど食わずに飲んでばっかだったし」

「お水持ってきます」

「あ、待って」


 立ち上がろうとした澪を藤乃が引き留めた。


「そいつ、美園さんのごはんが美味すぎて居酒屋の飯が全然ダメだから食わなかったんだよ。空っぽの胃で飲んだせいで変に酔っちゃって」

「えっ……そ、そうなんですか?」

「……うん」


 頷くと澪が困った顔をする。

 まずかったかな。


「あのさ、そいつ白馬の王子様じゃないから、待ってても迎えに来ないよ」


 藤乃の意味不明な発言に澪は答えない。

 俺が王子様なわけねえだろ。


「何言ってんだよ、お前」

「絶対合意じゃねえと寝ないしね」

「ほんと何言ってんだ。余計なこと言うな、馬鹿」

「今の美園さんには言ったほうがいいと思うけど」


 言われた意味を考えても、酔った頭じゃ何もわからねえ。

 酔ってなくても分かったか怪しいけど。


「……意味わからん。帰れ帰れ。……サンキュ、送ってくれて」

「いいよ、迷惑料もらったし。じゃあな。また、美園さんも」

「あ、はい……ありがとうございました」


 頭を下げる澪に、藤乃はひらひらと手を振って出て行った。

 ぼんやり座っていると、澪が家の鍵をかける。


「お水、お持ちしますね」

「ん」


 すぐに澪は戻ってきて、コップを渡される。

 ただの水道水なのに、やけに美味く感じた。

 コップを片付けた澪は、また隣にしゃがんで俺を覗き込む。


「立てますか?」

「うん」


 ゆっくり立ち上がるけど、やっぱり足元がふらつく。

 澪が慌てて手を差し出してくれるけど、俺がもたれかかったら、お前、潰れちまうだろ。


「だいじょぶ」

「全然、大丈夫に見えません」

「じゃあ、手……引っ張って。俺がふらついたら離していいから」

「……離しませんよ」


 顔を覗き込もうとしたけど、澪が玄関の明かりを消してしまったから、見えなかった。