あなたの家族になりたい

 アイスを買って家に帰ると澪が小走りで出てきた。


「瑞希さん、お帰りなさい……! 冷凍庫、空けておきました」

「ただいま。ありがと。晩飯の後で食おう」

「はい、楽しみにしてます」


 アイスの箱を受け取った澪は、また小走りで台所に向かう。

 客間から親父と美園さんが顔を出した。


「アイスあんの?」

「ねぇよ。買ってきたけど、澪の分だから」


 美園さんが目を細めた。


「一葉が言うより、瑞希くんは澪によくしてくれてるみたいだね。ありがとう」

「そんなんじゃないです。サーティーワン食ったことないっていうから」

「あー……、そうかもね……」


 渋い顔で美園さんが頷いた。

 それで納得できるような母親ということなのだろう。

 そりゃまあ、会いたくないよな。



 晩飯の後に澪が茶を入れてくれて、一緒にアイスを並べる。

 さすがに二十四個もあると、並べただけでテンションが上がる。

 スマホで何枚か写真を撮って、ついでにアイスを選ぶ澪も撮っておく。


「私、和栗味食べたいから取っておいてね」

「わかりました」


 お袋がそう言って風呂に向かう。

 親父も横から手を出して、チョコのを持っていった。


「これ、何味ですか?」

「ストロベリーチーズケーキ」

「こっちは?」

「チョコとナッツ」

「ど、どうしましょう……」

「今全部食わなくていいし、いくつか選んで俺と半分ずつでもいい」


 澪が目をキラキラさせてテーブルの周りをうろうろしている。

 澪の母親は、本当に馬鹿だな。

 アイス一つで、こんなに喜ぶのに。


「瑞希さん、ストロベリーチーズケーキと、バナナストロベリーと、あとこれとこれ食べたいです」

「へいへい。他のは冷凍庫に戻すから、好きに食ってろ」

「お皿とってきます」

「いらんだろ。直接食えよ。残ったら俺が食うし」


 アイスを冷凍庫に戻してダイニングに戻ると、澪が座って黙々と食べている。

 覗きこんだら、ベリーベリーのアイスだった。

 ……もしかして、苺好きなんかな。


「おいしいです」

「そらよかった」


 三分の一くらいに減ったカップを受け取る。

 ちょっと触れた指先が冷たいけど、本人は気にせず次のカップを手に取る。


「茶も飲めよ」

「はい……アイスが美味しくて、ついそればっかりになっちゃって」


 残りのアイスを一口で食べると、澪が目を丸くした。


「……ごめんなさい、食べ残しを……」

「気にしないけど」

「……そうですか……。汚くないですか?」


 眉を下げる澪に、俺は首をかしげた。


「何が?」


 澪は一瞬、顔をくしゃっと歪めてうつむく。

 しばらくしてから、またアイスを食べ始めた。

 最後にあずき味を半分くらい食べて、カップを俺に寄越す。


「あずき、美味しかったです」

「うまいよな。定番だけど、つい食っちまうんだ」

「瑞希さん、ありがとうございました。ごちそうさまです」

「いーえ」


 澪はカップと俺が持ってたスプーンを回収して台所に行ってしまった。

 俺も風呂に行ってこよう。

 真冬にアイス食ったから暖房が効いているとはいえ、寒い。