あなたの家族になりたい

 俺も澪の隣に座りつつ、藤乃が差し出してくれたビールの缶を受け取った。


「お前は飲まねえの?」

「俺は運転手だから」

「泊まってけば?」

「どうしようかな……」


 いつもなら泊まっていくのに、珍しく言い淀む。

 何か用事でもあるのか。


「美園さんいるからね。迷惑じゃない?」

「……あー……、どうかな」

「本人に聞くなよ。迷惑って言えないだろ、普通」

「藤乃、そんな気が遣えたんだな。知らんかった」

「優しくない自覚があるから、気をつけてるだけだよ」



 藤乃の視線の先では、花音が澪と菓子をつまみながらあれこれ話していた。

 澪も、心なしか――俺と話しているときよりも楽しそうに見える。

 そもそも挨拶以外の会話ってほとんどしないしな。

 花音とはどんな話してたっけ?

 よく思い出せないし、頭もまったく回らない。

 久しぶりに飲んだら眠くなってきた。

 ぼんやりとビール缶を傾けながら、妹と、隣にいる女を眺める。




「……、やべ、めっちゃ寝てた」

「おはよ」

「お、おお、藤乃だ」

「私もいるよ」


 ソファの左右の斜め向かいにそれぞれ藤乃と花音が座っていた。


「……俺、どれくらい寝てた?」

「二時間くらいかな」

「マジで」



 顔を上げて外を見ると、夕方だったはずの景色が真っ暗になっていた。

 ソファに沈んでいた身体を起こしたら、腹に膝掛けが乗っている。

 持ち上げると花音が覗き込んできた。


「澪さんがかけてくれてたよ」

「これ、見覚えねえな」

「そなの? お兄ちゃんのじゃないんだ?」

「じゃあ美園さんのかな。二階に上がって持ってきてたから」

「そうかも。澪は?」


 キョロキョロするとソファの後ろから澪が顔を出した。


「……瑞希さん、お目覚めですか?」

「うん。これ、あんたの?」

「はい」


 澪は手にしていたトレーをテーブルに置く。

 雑煮が三つ乗っていた。ひざ掛けを受け取って、また俺を見る。


「瑞希さんも何か召し上がりますか? えっと、お雑煮かお汁粉かお節だとすぐお出しできます」

「じゃあ汁粉」

「わかりました」