あなたの家族になりたい

 しょげた顔の澪を連れてダイニングに行くと、お袋が餅を焼いていた。


「瑞希、お昼はお雑煮とお汁粉、どっちがいい?」

「汁粉。……そんなんあったっけ?」

「昨日の夜、澪ちゃんが作ってくれたの。瑞希が甘いの好きだからって」

「そうなん? ありがと」

「い、いえ……」


 お袋から汁粉を受け取って食う。

 うまい……甘いけど、さっぱりしてていくらでも食える。


「うまい。お代わりちょうだい」

「お口に合ってよかったです……」


 澪がお椀片手に台所に向かう。


「で、なんでお父さん呼んだの?」


 お袋が雑煮を二つ持ってやってきて、一つは澪の席に置く。

 俺は戻ってきた澪から汁粉を受け取る。


「澪にイヤミ言いやがったから」

「あら……」

「これを機に出禁食らわせようかと。どうせ俺の代になったら出禁にするつもりだったし、そこまでのさばらせとく理由もねえし」

「そうねえ。一日昼を一緒にするくらいなら我慢しようかと思ったけど……別に、その必要もないわね……」


 きょとんとする澪に、お袋が叔母たちとのことを説明する。

 親父とお袋は見合いで、顔合わせの時からひどかったらしい。


「あの人たち、お兄ちゃん大好きだからね。お兄ちゃんを奪った憎い女とその娘が大嫌いなのよ。花音は私に顔がそっくりだし」

「……瑞希さんも似てますよね?」

「瑞希は男の子だから。長男って括りが好きなのよ、たぶん」


 呆れた顔のお袋に、澪は静かに頷いた。


「……ちょっとわかります」

「えっ、わかんの?」

「あ、そうじゃなくて……うちの母も、そういうとこあるんで……」


 なるほど……? 澪は、クリスマスプレゼントも誕生日プレゼントももらったことがないと言っていた。

 子どもの頃、叔母どもは俺にはクリスマス、誕生日、お年玉と渡してきたが、花音には絶対に何も用意しなかった。

 ……早めに釘を刺しておいて正解だったらしい。

 汁粉を食い終えたころ、玄関から親父の声が聞こえた。


「お帰りだそうだ。見送って差し上げろ」

「はいはい」


 お袋が笑って立ち上がる。

 俺も澪を後ろにしてついていく。

 叔母と、その旦那・子どもは、不満そうな顔で玄関に立っていた。


「……失礼します」

「大したお構いもできませんで」


 お袋がニコッと笑い、叔母がギロリと睨む。

 しかし親父が咳払いすると、叔母たちはすごすごと帰って行った。


「はー、まったく。悪いね、澪ちゃん。正月から」

「い、いえ、私は全然……」


 親父は肩を落としてダイニングに向かい、お袋がその後を追う。

 昼飯のお節を食べながら、親父が顔を上げた。


「今後、連中は玄関より先、立ち入り禁止にしたから」

「ふうん。出禁にはしなかったんだ?」

「したほうが良かったか?」

「別に。玄関なら行かなきゃいいだけだし。澪はもう顔出すなよ。うぜえから」

「はあ……」


 澪は困った顔で頷く。
 お袋と親父は顔を見合わせて、ニヤニヤしていた。……鬱陶しい。