帰り道、ケーキ屋で適当にいくつか買っていく。あの女の分は、とりあえず無難にイチゴのショートケーキ。ついでにチョコのも買っとくか。
あと俺のプリンとお袋のモンブラン。親父は……一番安いチーズケーキでいいや。
帰宅して、ケーキの箱を持ってリビングに顔を出すと、母親が帳簿の見方を澪に教えている。
「ただいま」
「おかえり。あ、ちゃんと買ってきた」
「買わねえとうるせえだろ。花音が正月に藤乃と顔出すって。須藤さんも、親父と飲みに来るってさ」
「あらそう。じゃあお酒とおつまみを用意しておかないと」
お袋は澪に花音と須藤家について説明している。まー、うちの嫁になるなら、付き合いは避けられねえしな。
……藤乃は、この女を見てなんて言うんだろう。
今まで藤乃に女を紹介したことなんてない。そもそも付き合ってなかったし、ただのセフレなんか紹介しねえし。
畑に戻って親父にも同じ事を伝えると。
「やった、酒とつまみ用意しとかねえと」
と、お袋と同じ事を言っていた。
夜、飯を食ったあと、プリンを出して食ってたら、澪が風呂から上がってきた。
「あの、お風呂、いただきました……」
濃い灰色の薄手のスエット上下を着て、乾かしたばかりなのか髪がふわふわしている。風呂で暖まったせいか、いつもより顔色がよく見えた。
「ケーキある」
「え……?」
冷蔵庫からケーキの箱を出してきて見せる。
「ショートケーキとチョコとチーズケーキ、どれ食うんだ」
「あの、他の方は……」
「俺はもう食った。お袋はモンブラン。親父はどれでもいい。なくてもいい」
「なんでだよ、俺も食うよ」
リビングでテレビを見ていた親父が顔をこちらに向ける。
「こないだ俺のヨーグルト食って、返してねえだろうが!」
「そうだっけ……」
「もう全部お前が食え。親父はほしけりゃ澪に頼め」
棚からフォークを出して澪に押しつける。
箱に入ったままのモンブランは皿に移してラップをかけて冷蔵庫に戻した。
「モンブランはお袋のだから、親父は食いたきゃ覚悟して食え」
「食わねえよ、そりゃ」
「なら俺のも食うなよ……」
そのままダイニングを出ようとしたら、澪がケーキの箱とフォークを持ったままついてきた。
「……あの、ありがとうございました……」
「なにが」
「ケーキ。私の分も買ってきてくださって。……あと、その、選ばせてくれて」
「お前の……澪の好きなもんを知らねえだけだ。欲しいもんがあるなら、ちゃんと言え。不便だ」
「……わかりました」
澪はぺこっと頭を下げて戻ろうとする。
その背中に「おやすみ」と声をかけたら、パッと振り返った。
「お、おやすみなさい……瑞希……さん」
廊下は薄暗かったけど、少なくとも怯えた顔には見えなかった。
あと俺のプリンとお袋のモンブラン。親父は……一番安いチーズケーキでいいや。
帰宅して、ケーキの箱を持ってリビングに顔を出すと、母親が帳簿の見方を澪に教えている。
「ただいま」
「おかえり。あ、ちゃんと買ってきた」
「買わねえとうるせえだろ。花音が正月に藤乃と顔出すって。須藤さんも、親父と飲みに来るってさ」
「あらそう。じゃあお酒とおつまみを用意しておかないと」
お袋は澪に花音と須藤家について説明している。まー、うちの嫁になるなら、付き合いは避けられねえしな。
……藤乃は、この女を見てなんて言うんだろう。
今まで藤乃に女を紹介したことなんてない。そもそも付き合ってなかったし、ただのセフレなんか紹介しねえし。
畑に戻って親父にも同じ事を伝えると。
「やった、酒とつまみ用意しとかねえと」
と、お袋と同じ事を言っていた。
夜、飯を食ったあと、プリンを出して食ってたら、澪が風呂から上がってきた。
「あの、お風呂、いただきました……」
濃い灰色の薄手のスエット上下を着て、乾かしたばかりなのか髪がふわふわしている。風呂で暖まったせいか、いつもより顔色がよく見えた。
「ケーキある」
「え……?」
冷蔵庫からケーキの箱を出してきて見せる。
「ショートケーキとチョコとチーズケーキ、どれ食うんだ」
「あの、他の方は……」
「俺はもう食った。お袋はモンブラン。親父はどれでもいい。なくてもいい」
「なんでだよ、俺も食うよ」
リビングでテレビを見ていた親父が顔をこちらに向ける。
「こないだ俺のヨーグルト食って、返してねえだろうが!」
「そうだっけ……」
「もう全部お前が食え。親父はほしけりゃ澪に頼め」
棚からフォークを出して澪に押しつける。
箱に入ったままのモンブランは皿に移してラップをかけて冷蔵庫に戻した。
「モンブランはお袋のだから、親父は食いたきゃ覚悟して食え」
「食わねえよ、そりゃ」
「なら俺のも食うなよ……」
そのままダイニングを出ようとしたら、澪がケーキの箱とフォークを持ったままついてきた。
「……あの、ありがとうございました……」
「なにが」
「ケーキ。私の分も買ってきてくださって。……あと、その、選ばせてくれて」
「お前の……澪の好きなもんを知らねえだけだ。欲しいもんがあるなら、ちゃんと言え。不便だ」
「……わかりました」
澪はぺこっと頭を下げて戻ろうとする。
その背中に「おやすみ」と声をかけたら、パッと振り返った。
「お、おやすみなさい……瑞希……さん」
廊下は薄暗かったけど、少なくとも怯えた顔には見えなかった。



