十六夜月のラブレター


「俺、ほんとにショックは受けてるんだから。サッカー部のキャプテンで体育祭で応援団長とかもして目立ってモテてた俺を憶えてないなんて。俺のプライドが許さない」

「私、本当に子供の頃から陰キャで。ずっと学校の図書室に籠って本ばかり読んでたんです。だから、決して入谷さんのプライドに関わる問題では」

「でもちゃんと話したこともあるから。家にも行ったことあるよ。正確には雪見ちゃんの家だけど。雪見ちゃんに勉強教えて欲しいって頼まれて」

「私と違って雪見は友達が多くていろんな人が来てたから」

「その時さ、家中甘くて香ばしい香りが広がってて。雪見ちゃんに聞いたらお姉ちゃんがマドレーヌ焼いてるんだって言ってた」

「そうそうその頃マドレーヌ焼くのが好きで。お菓子を焼いてるとなんか心が落ち着いたから」

「俺、雪見ちゃんの部屋でそのマドレーヌいつ出てくるんだろうってずっと待ってたけど、結局出て来なかった」

「あはは。いつも全部私一人で食べちゃってたから」

「今度、作ってくれる?」

「いいですよ」

「やった。そうだ、俺のこと思い出すまでこれから毎週、お仕置きデートな」

「お、お仕置きデート!?」

「うん。それに俺のこと思い出さないと、投資の損益取り戻せないよ? ご褒美、欲しいでしょ?」

「ご褒美は……欲しいです」

「じゃあ決まり!」

「でも私、毎週デートなんて何を着ていったらいいかわかりません」

「いつもの月見ちゃんでいいよ。プランは俺が毎週考えるから。お仕置き、楽しみだね♡」

Sモード全開で楽しそうに笑う入谷さんを見ながら、それでも私は入谷さんと話したことどころか存在さえ思い出す自信がなかった。

記憶力は悪い方じゃないのに。私の脳の海馬、一体どうしちゃったの?