私が入谷さんのことを思い出せないのは当然だった。

私を雪見と人違いしていただけなのだから。

入谷さんが思い出してほしかったのは、会いたかったのは、雪見だから。

私の名前は深沢月見。雪見は一卵性双生児の妹だ。

物理的にも心理的にも雪見と離れて比べられなくなった高校生以降は、自分を取り戻せていたはずなのに。

今夜、入谷さんに雪見と間違われていただけと知って子供みたいに泣き叫んでしまった。

雪見じゃないと知って落胆する入谷さんの顔を見るのが怖かった。

今までの誰もがそうだったように。

もう大人なんだから笑って「ごめんなさい、雪見じゃないんです」って言えば済んだ話なのに。

雪見じゃないと言えなかった。泣いて逃げてしまった。

なぜ? それは、入谷さんだから。

私は心のどこかで入谷さんが優しく接してくれるのを心地好いと思っていたのだ。

しかしそれはすべて雪見に向けられていたもので私のものではなかった。

それが悲しくてショックなんだ。

入谷さんは何も悪くない。

今でも雪見と私はメイクとかも全然違うし雪見は美人で私は地味だけれど、顔の造形だけは同じ。

社内報には私の顔写真と苗字しか載っていなかった。雪見とずっと会っていなかった入谷さんが間違えるのも仕方ない。

それなのに、あんな態度をとってしまった。

恥ずかしさと申し訳なさで一杯になる。