私はイケメンさんの傷をメイクで隠すらしいです


「やっぱり杏奈ちゃんのメイク技術はすごいわね〜」


夕陽がそろそろ顔を覗かせる頃、私深海杏奈は兼保健室に来ていた。


兼保健室とは、保健室の隣の空き教室を空き教室兼保健室として使っている教室。


ベッドが一つあって他には椅子と机が普通に教室みたいに置かれている。


中学校にはこういった空き教室が多いらしい。


特に友達もいない私はたまにこうやって保健の安西先生にメイクを実技形式で教えにくるのだ。


「そんな事ないですよー」


ニコッと微笑むと可愛らしいえくぼができる安西先生はみんなからの評判もいい。けど、本人的には一つ困っている事があるらしい。


「やっぱり私にはこんな風にメイクはできないわよ」


安西先生は今までメイクというものに興味を持った事がないらしくてコスメとは全く無縁の人生を送っていたらしい。だから化粧っ気がなくその事を本人は少なからず気にしているようだった。


別に安西先生はメイクしなくても十分可愛いと思うんだけどな〜。


そう思いながらリップをポーチに戻していると突然、兼保健室のドアが開いた。


ゆっくりと開いたドアの向こうから顔を出したのはすごく綺麗な顔をした男の人だった。


すらっとした長身には見合わない小顔。


キリッとした目よりも茶色みがかった瞳の方が目を惹く不思議な人だった。


この人、三年の不知火依桜先輩じゃないかな?


友達がいない私でも知っている有名人。


顔がすごく綺麗でスタイル抜群な人だと聞いた事がある。


なんだか黒い噂があるというのも聞いた事があるけど、どんな噂なのか本当の所どうなのかは全く知らない。


肌も綺麗に透き通っていたのだけど、右頬に大きなアザが痛々しくついていた。


「今日こそこのアザ消してくれない?」


アザ……?あの右頬の事かな?


別に大きな声を出していたわけじゃないのに低い声ははっきりと兼保健室に響いた。


消す?あのアザをかな?手当ならともかく消すのは無理なんじゃないかな?


私は訳もわからず固まっている中、綺麗な顔をした男の人はズカズカと保健室に入ってきて椅子に座った。


「保健の先生なんだから消してくれない?」


さっきからひとつも表情を変えない面倒くさそうな顔をしながら左肘を足につき安西先生を捉える。


「また来たのね不知火君……。何度も言っているけどここは傷を隠す場所じゃなくて傷を手当てする場所だからあなたのアザを消す事はできないわ」


「ここしか知らないし」


「傷を消してくれるところなんて無いわよ」


「ちぇ」


何回かここに来たことあるのかな?あの人。


安西先生の口振りから顔見知りなのはわかった。


「あっそうだ!杏奈ちゃんなら消せるんじゃない?」


「えっ⁉︎私ですか?」


どうして私がここで出てくるのよ⁉︎


二人の会話の第三者目線で見ていた私に飛んできた突然の言葉のキャッチボール。


「君に消せる?俺のこのアザ」


見えやすいようにかわざわざ左側を向いてくれた男の人。


消すって、どうやって?


私が見てわかるのはすっごく痛そうなアザが綺麗な顔の右頬にできている事だけ。


「いや、私には……」


「杏奈ちゃんならできる!だって杏奈ちゃんはメイクがすっごく上手なんだから!」


笑顔でそう言われてしまい呆気に取られる。


私は魔法使いじゃ無いですよ安西先生⁉︎


自信満々に言われてしまって男の人の視線が私の全身に刺さる。


「じゃあ君に頼もっかな」


「えっ⁉︎」


本当に私があの人にメイクをするの⁉︎


楽しそうな顔をしている安西先生とメイクされる気満々の男の人。明らかに断れない雰囲気になってしまっていた。


「わ、わかりました……」


もうこれは断れないよね……。やれるだけやってみよう。


断れなくなってしまったので、私はさっきしまったメイクポーチを持ってくる。


机にの上に置き、男の人の向かいに椅子を引っ張ってきて腰を下ろした。


男の人のアザは青あざ。肌は綺麗だからカバーするのは楽かな。


「じゃあ始めますね。まずは保湿からしていきます」


乾燥するとコンシーラーがよれたりムラになりやすくなっちゃうからね。


「うん」


保湿って言ってもいつも何を使っているかはわからないから保湿クリームだけど。


次にオレンジ系のカラーコントロールで青みを消す。


小指くらいの量をとってアザの上に乗せ軽くトントンと塗る感じでやればグッド!


こすらず叩くようにするのがコツ!


次に肌色コンシーラーでカバー。


カラーコントロールの色が透けないように重ねて叩き込むように薄く伸ばす。


それからファンデーションで全体を馴染ませてパウダーで仕上げをしたら完成。


「はいっできました!」


我ながらいい出来!青あざは完全にカバーできてるし肌にもちゃんと馴染んでる!


手持ち鏡を男の人に渡してメイクの完成を確認してもらう。


「すごい……。さっきまであんなアザがあったのにもう全くわからなくなってる」


いろんな角度から頬を見ているが男の人の表情は兼保健室に入ってきた時よりも柔らかな表情になっていた。


喜んでくれてるならよかった。ちゃんとできるか心配だったから。


椅子をくるっとまわして安西先生の方を向くと先生はニコッと笑ってグットポーズを顔の横で作っていた。


私もニコッと笑いグッドポーズを作って反応する。


「えっと、崩れにくくはしてありますが完全に消したわけでは無いのでアザはあなたの頬に残っています。だから完治したという捉え方はしないようにしてください」


メイクは隠すことはできても消す事はできないから。


「わかった。てかめっちゃ上手だねメイク。俺の専属になってほしいくらいだよ。今の人とは合わないし」


僕の専属?今の人とは合わない?もしかして何かしている人なのかな?


「あ、そうそうこの人はねモデルさんなのよ〜」


「えっ⁉︎モデルさん⁉︎」


私が思っていた事を汲み取ってくれたのか安西先生が教えてくれた。


モデルさんだったんだ……。すっごく綺麗だしやっててもおかしくないよね!


モデルさんならこんなにも綺麗な顔をしていても納得ができる。


モデルと言われてしっくりきて、なんだかつっかえていたものが取れた気がした。


モデルさんなら顔に傷とか作ったらいけないんじゃないかな……?


どうして顔にあんな大きなアザができているのか、私は知らなくてもいい事なのかもしれないけど一度気になってしまうとどうしても聞いてしまいたくなる。


「ねえ、君名前は?」


「あっ、えっと、深海杏奈です」


「深海さんね、これからもよろしくね」


これからも……?


「は、はい……」


一瞬引っかかったけど返事をすると男の人はニコッと爽やかに笑って兼保健室を出て行った。


な、なんだかあまり掴みどころのない人だったな……。


男の人が出て行ったドアの方を一度見てから思いっきり伸びをして立ち上がる。


「お疲れ様、杏奈ちゃん!杏奈ちゃんのメイク技術がすごい事はわかっていたけどあんな大きなアザを隠す事もできたなんて私びっくりしちゃったわ!」


「はは……」


安西先生、私がアザを隠せなかったらどうしてたんだろう……。


安西先生は軽いところもあるからたまに爆弾を投下してくるんだよね……。


「でもほんとに良かったわ、あの子毎回私のところに来ては『アザを消してくれ』って言われてね。正直お手上げ状態だったから」


「そうだったんですか」


だから最初『また来たのね』って安西先生は言ってたんだ。


安西先生は好きだから笑顔が見れるとそれだけでちゃんとやれてよかったって思える。


「あの、一つ聞いてもいいですか?」


「うん、なんでも聞いて!」


もう聞いてもいいかなと思い私はさっきからずっと引っかかっている事を安西先生に聞く事にした。


「どうしてあの人の顔にはあんなアザがあったんですか?」


モデルさんだと言っていたし顔に傷をつけるのは良くないんじゃないかなって思って。


「あーそれはね殴られたんだって」


「殴られた?」


「うん、なんかね急に男の人に殴りかかられて顔に一髪くらっちゃったらしいの」


「ど、どういう事ですか?」


「えっと、説明するのが難しいんだけど、あの子……不知火依桜君はいろんな女の子と付き合ってるみたいでその中の一人に本命の彼氏さんがいたらしくてその彼氏さんに殴られたとか。まあ不知火君も遊びだと思って付き合ってるみたいだから本命とかどうでもいいって言ってたけど」


嘘でしょ……そんな理由で殴られてアザができてた
の?


……あの人、クズ男じゃん⁉︎


いろんな女の子と付き合ってその中の女の子の彼氏に殴られてあんな大きなアザを作ってたの?


あの顔からは想像もできないような事をしているとわかり人って怖いんだな……と思った。


まあでも、これからは関わる事もないだろうし、大丈夫かな–––。