『心の声が聞こえる』クールな同僚の瞳が、私に愛をささやく

 風が強く吹いた。陽菜の熱い頬を冷ましていく。耳元で音が鳴りやまない。心臓が力強く拍動していた。

「ほら御守り」
「えっ……?」
「袋に入れるから」

 促されるまま御守りを渡すと、蓮は授与所に入ってしまった。レジを打ち、紙に包んでいる。

「あっ、お金」

 財布を出したが、蓮は「いらない」と言ってお金を受け取らなかった。

「俺が河村の代わりに、お供えをしておく」
 
 薄暗い場所から蓮が出てきた。彼の黒髪に夕陽が差す。光の粒子が舞っては消えた。

「これは応援の意味で、河村にあげるよ」
「いいの?」
「ああ」
「ありがとう。大切にするね」

『良かった、少しだけ悩みが聞けた。でもまだありそうだな』

「さ、カフェに行くか」

 夕焼けのせいか、蓮の耳は赤い。陽菜は何も言えずにいた。無言で蓮の影を踏み、後ろを歩く。
 途中で住居用らしき建物があった。

「ここに住んでるの?」

 平屋の木造建築の家屋が建っていた。神社の景観を損なわず、周囲と美しく調和している。

「いや、俺は実家を出て一人暮らし。ここは兄夫婦が住んでる」
「ご両親は奥のお家?」
 
 手入れされた庭の奥にもう一軒、家屋があった。

「母親は俺が中校生の時に亡くなったから、父親は奥の家に一人で住んでるよ」
「そうだったんだ……。中学生の時って、まだ子どもだし、色々大変だったよね」
「まあな」

 少し歩くとカフェに着いた。外観も神社のような造りだ。

「どうぞ入って」

 扉を開くと木の香りがする。
 木の温もりに包まれ、年輪が多彩で芸術的な形を見せている。
 天井が高く、剥き出しの梁が整然と並び、自然の美しさ、力強さが空間にあふれていた。

「わぁ……、素敵なカフェだね」

「そこのカウンターに座って。簡単なものしかないけど用意するよ」
「私も手伝う」
「いい。ずっと入りたかったんだろ。色々見ればいいし、写真も撮っていいよ」
「……ありがとう」

 言葉に甘えることにした。カウンターに座り、店内を眺める。採光を取り込む設計になっているのか、窓が大きく景色が綺麗だ。神社や中庭が絵葉書のように美しく、見ていて飽きない。
 
 エプロンをつけた蓮が現れて「好き嫌いやアレルギーはないか?」と尋ねてきた。

 「ないよ」

 見慣れない蓮の姿に驚く。
 蓮は手を丁寧に洗い、鍋を取りだした。
 キッチンカウンターになっており、調理する手元が見える。野菜を取りだし、慣れた手つきでカットしていった。

「朝倉くん、料理できるんだ」
「一通りは出来るよ。母親が亡くなって、一人暮らしするまで俺が料理担当だったんだ」

 包丁とまな板の小気味よい音が聞こえる。
 人参、大根、薄揚げ、春キャベツを炒め、黄金色の出汁を注ぐ。美味しそうな香りが広がった。

「味噌は自家製だから、口に合うかわからないけど」

 カウンターに料理が置かれていった。

 木の腕によそわれた野菜の味噌汁。ラップに包まれたおむすび。大きな海苔で巻かれている。鮭、シソのちりめん、昆布のおにぎりが並び、花皿に盛り付けえられている。

「美味しそう……。朝倉くん、ありがとう」
「俺も食べるから、ついでに。一人分も二人分も変わらないしな」

 赤い漆の箸に桜の箸置きが添えられていた。薄紅色の漬物は透き通り、皿の模様を覗かせている。
 淡い卵焼きがふんわりと心を和ませてくれる。

「じっくり見るほどのものでもないよ。質素な食事だ」
「ううん、真心がこもってる食事だよ。ありがとう」
「……ん」

 蓮はエプロンを取り、隣に座った。
 並んで食べると眼を見なくて済むが、今度は距離感の近さに胸が騒がしい。

「いただくね」
「どうぞ」

 一口食べると、海苔の風味が香る。米がほろほろと溶けて、具材の美味しさが広がった。
 大きな鮭の切り身が入っていた。程よく脂がのっている。

「おいしい……」
「良かった」
「うん、お米もつやつやで、鮭の塩加減がちょうどいい」

 温かい味噌汁はホッとする味がする。野菜もシャキシャキと歯ごたえ良く、素材の味が美味しい。自家製の味噌はまろやかなのに、深みがある。

 家庭的な味が心に染み渡る。どこか懐かしくて優しい味だ。