『心の声が聞こえる』クールな同僚の瞳が、私に愛をささやく

「朝倉くん」

 陽菜がいる。目元を彩るパールピンクが不思議そうに瞬いていた。光の粒子が生まれて、キラキラと輝いている。

「ど、どうしたの顔色が真っ青だよ」

 白のインナーと華奢な黒キャミワンピースが大人っぽくて、私服姿の陽菜は一段と可愛い。

 じっと見つめていると「一旦、自宅に戻って着替えてきました……」と恥ずかしそうにするので、蓮は可愛さのあまり泣きたくなってきた。

 どんな時でも河村陽菜は可愛い。新人研修の時から一生懸命で、笑顔を絶やさない。蓮の一目惚れで、同じ経理部に配属されたと知った時は、神様に感謝したくらいだ。
 仕事の取り組み方や性格を知る内にもっと好きになった。

「河村に……謝らないといけないことがある」
「え、なになに」

 神社にあるベンチに陽菜が座った。

「河村が、他人の心の声を聞こえるようになったのは、もしかすると俺のせいかもしれない」

 小さな沈黙があった。

「何で、急にそう思ったの」
「……河村が体調不良になった時、治して下さいって祈祷を上げた」
「き、きとう?!」
「祝詞も献上した」
「の、のりと?!」
「ついでに俺の心も知って欲しいってお願いをした」

 手を固く握りしめた。

「そうだったんだ……。あ、でも、今は心の声が聞こえて良かったなぁって思ってるよ」

 無邪気で飾らない。
 陽菜は素直で、相手を思いやる。口許は綺麗なカーブを描き、屈託ない笑みを見せた。
 笑顔は他人を安心させるサインだ。
 心の声が聞こえてくる。

「どんな始まり方でも、大切なのは今の気持ちだよ。……朝倉くんの心の声を聞いてなかったら、朝倉くんのことを冷たい人だなって誤解したままだったから」
 
 心地よい風が吹いた。陽菜の髪がふわりと揺れる。色素の薄い瞳が蓮だけを見つめる。

「私ね、あんなことになって、どうしていいのか分からなかった。でも朝倉くんは、私に向き合ってくれたよね。誰かのために行動できる人って、いないと思うんだ。……すごく心強かった」

 陽菜はベンチから立ち上がる。「ん〜」と軽く伸びをした。

「一人で悩んでたのが嘘みたいに視界が開けて、心が軽くなっちゃった。……なんかね、朝倉くんのお蔭で強くなれたよ」

 陽菜は背を向けたままだった。

「それに……朝倉くん、神様にまたお願いをしたよね」
「え……?」

 そっと笑う声がする。風のように涼しげな音だ。

「気がつかない? 私、家に帰って着替えてきたんだ。メイクも直したよ」

 そう言えば綺麗なアイシャドウを塗っていた。キラキラとラメが光って――。

「眼鏡がない……」
「正解!」

 嬉しそうに陽菜が振り返った。
 目の端に光るものがある。水晶のような涙が宿っていた。

「心の声が聞こえなくなったの。ありがとう、神様にお願いをしてくれて」

 でも残念だな、と陽菜が呟く。

「朝倉くんが、心の中でたくさん告白してくれたから、もう聞けないのが寂しいね」

 気がつくと蓮はベンチから立ち上がっていた。強い風が吹き、背中を押されているようだった。

「何回でも本当のことを言うよ。河村が好きだ。俺と付き合って下さい」

 陽菜が綺麗に微笑む。
 特別な心の声を、蓮だけに送っていた。



 おわり