『心の声が聞こえる』クールな同僚の瞳が、私に愛をささやく

 陽菜からメッセージが届いた。

【今から神社にいくね】
 
 蓮はスマホをじっと眺める。眉間に皺がグググッと寄る。

 今日も河村陽菜が可愛い。

 蓮は神社にいる。陽菜が来るのを今か今かと待っていた。本当なら退勤後、一緒に歩いてここまで来たかった。だが毎日のように一緒に帰ると目立つと言われて、大人しく別行動にした。

 もしかして避けられて――いや違う。
 彼女の言うことを守った。彼氏として優秀じゃないだろうか。

 蓮は自画自賛した。まだ同期の身分だが、思い込みでモチベーションを高めている。
 父親も兄も忙しく、頭など撫でられたことはない。それならば自分で褒めて、何でも前向きになろうとやってきた。
 
 だが先日、奇跡が起きた。陽菜が優しく頭を撫でてくれたのだ。その時から蓮の中で今年の世相を表す漢字は『撫』に決まった。陽菜は蓮の心に、『恋』と『撫』いう大きな筆文字を残してくれた。

 これは恋人になるしかない。
 蓮は神様にもう一度、参拝をした。くどくどくどと祝詞のように長くなる。

 神様、今日はお願いにあがりました。幼い頃から社会人になるまで長期休暇と正月は強制的に手伝わされ、それでなくても人手が足りないと言われて全てを捧げてきました。母親が亡くなってからは経理補助に入り、そのうちに父親は『悪い、老眼が入った。ギブだ』とアッサリ俺に帳簿を丸投げしてきました。

 高校、大学生の時には月末、会計士と話し合って、なんとかやり繰りもしました。簿記の資格取得、進学も国立大以外は許さないと言われ、全部達成してきました。時に怒られ、謝り、しかも無給やってきました。父親は『神様の御用をしていれば、いざという時に助けてくださる』とぬかして……いや、申しております。

 好きな人のために、初めて神様に反抗し、本音をぶちまけます。

 助けてくださるのなら、それは今じゃないでしょうか! 

「河村の聴力が元に戻りますように。心の声が聞こえなくなって、心穏やかに過ごせる日が来ますように」

 手を合わせて願う。
 財布から五万円を取り出し、賽銭箱へと納めた。

「またやってる」

 背後から兄の呆れた声が聞こえた。今日は厄除けの予約が入っており、袴の姿でいる。

「何が。参拝をするのは当然だろ」
「そうだけどさ、河村さん絡みの参拝は二回目じゃん」
「……二回目?」
「おーおー、また大枚をはたいて」と兄が賽銭箱を見つめている。
「おい、二回目ってどういうことだ」
「……おま、忘れたのか? 二か月前だったか、河村さんが高熱を出して、何日も会社を休んだことがあっただろ。蓮が『祈祷を上げろ』って血走った眼で神社に乗り込んできてさ。我が弟ながらホラーかと思ったわ」

 兄の言葉が耳から耳へと流れていく。背筋に冷や汗が流れた。

「それで、河村さんとは両思いになれたのか? 病気が治りますように、ついでに俺の心が伝わりますようにって言ってたもんな」