『心の声が聞こえる』クールな同僚の瞳が、私に愛をささやく

 窓から月明かりが差し込む。店内の照明は控えめで、光と影が交錯していた。
 磨かれた木のカウンターに、グラスの影が揺らめいている。

「朝倉くんに、謝らないといけないことがあるんだ……」

 蓮は顔を上げていた。陽菜の横顔を見つめている。

「心の声が聞こえてきて、だから朝倉くんの気持ちも……、私に」
「河村」
「……うん」
「俺の眼を見てくれないか?」
「え、でも」
「いいから」

 ゆっくりと顔を動かした。蓮の綺麗な双眸を見つめる。

『眼鏡を買いに行こう』

 心の声だ。

「めがね? どうして」
「テレパシーみたいだな」

 驚いた後、蓮は相好を崩した。

「河村」
「ん?」

『好きだ』

「な、な! 何言って!」
「すごいな、言わなくても通じる」
  
 蓮の頬は赤い。だが瞳は生き生きと輝いている。

「なな、なんか朝倉くん、開き直ってない?」
「そうか?」
「そ、そうだよ」

 蓮は優しく目幅を細めた。晴れ渡るように微笑む。

「まあ、本当のことだ。知られても俺は困らない。だから謝らなくていいよ。それよりまず眼鏡だ」
「どうして?」
「眼鏡をつければいい。眼鏡のフレームで、河村の目線は多少はごまかせるだろ」
「あ……、本当だね」

 盲点に気がつく。
 一人で悩んでいたことが嘘みたいに思えた。

「まずは何でも試してみよう。そのうちきっと治るよ。急に聞こえるようになったんだ、急に治る可能性もある」
「……うん」
「何でも相談してくれ。俺たちは同期だ。それに」

『恋人になるかもしれない』

「……あ、朝倉くん!」

 ガンガンくる。
 告白のギアが段々と上がっていく。おかげで心臓がもたない。もう無理だと早鐘を打っている。
 陽菜は息絶え絶えだった。
 顔の造作が美しい人の告白は、破壊力が違う。

「あ、あのね、朝倉くん、じゅ……順応性が有りすぎない?」
「そうか? 起こったことに対して、何でも前向きに行動しないとな」

 忘れていた。
 蓮は仕事を覚えるのが早く、順応性が高い。常に情報を持ち、気づき、どうすればいいか判断をして行動している。いわば割り切り、選択するスピードが早い。

「よし、眼鏡を買いに行こう。近くの店ならまだ開いてる」
「えっ」
「明日は休みだ。今日中に眼鏡を買って、明日は俺と視線のトレーニングをしよう。いいか? いいな。よし分かった」
「ま。まだなにも言ってない!」
「心の声が聞こえてきた」
「それ私の!」

 お互いに顔を見合わせて笑った。悩みが吹き飛ぶ。
 善は急げと、二人で眼鏡を買いに行った。店で試着をしていると、蓮が『それも可愛い』『可愛くて似合いすぎる』と心の声で伝えてくるので、陽菜は林檎のように真っ赤になっていた。