月夜に吠える、君の名を

健は、私の腕を離した
「健!」
森の奥に消えていく背中を、必死に呼び止めた。
声は冷たい夜風に攫われ、届く気配はない。

足をもつれさせながら追いかける。
けれど健は、わざと距離を取っているようだった。
『来んな……俺に近づいたら、また……』
途切れた言葉が月明かりに紛れ、何を言おうとしたのか分からない。

息が切れても、心臓が痛んでも足は止まらない。
怖くなんかない。
健がどんな姿でも、私は……。

やっと追いついた瞬間、健は振り返った。
そこには、獣の瞳と人の瞳が入り混じる複雑な光。
『……俺、もうすぐ完全に化けオオカミになる』
低い声は震えていた。
『それでも、紗羅は一緒に居たいって言えるんか?』
答えは決まっていた。
「言える。何回だって」

その瞬間、健の表情がぐしゃりと歪み、唇が何かを言おうと動いた……。