月夜に吠える、君の名を

「健!」
(あなた)が手を伸ばすと、その指先のすぐ前で彼の背がぐんと伸び、毛が逆立った。
骨の形が変わる音が、耳の奥まで響く。
それはもう、人間とは言えない姿だった。

月光に照らされ、銀色に輝く毛並み。
鋭い牙と、血のように赤く染まった瞳。

健は喉の奥から低く唸り声を漏らし、(あなた)を見た。
でも……
その視線には、わずかに人間の迷いが残っているように思えた。

その時、背後から怒声が飛んだ。
【おったぞ!あれが化けオオカミや!】
松明の炎が揺れ、犬たちが一斉に吠え立てる。

健は咄嗟に(あなた)を背に庇い、牙を剥いた。
村人たちの目には、(あなた)も化けオオカミの仲間に見えたのかもしれない。
《女も一緒におる!捕まえろ!》
炎が迫り、犬の鎖が外される音が響く。
健は一歩、二歩と後ずさりしながら、(あなた)を抱きかかえた。
そのまま、黒い影のように森の奥へ飛び込む。

背後で犬の鳴き声と怒号が遠ざかっていく。
でも、(あなた)の耳には健の心臓の音がはっきり聞こえた。
ドクン、ドクンと、異様な早さで脈打っている。

『……アカン……もう、俺……』
健の声は掠れ、唸り声に混じっていた。
その瞳は、獲物を狙う獣のそれに近づきつつあった。