推しの隣で、裸のまま。

週末、二人で小旅行に出かけることになった。
目的はない。
でも、誠也がふと「行ってみたい場所がある」と言ったのだ。

電車を乗り継ぎ、海沿いの小さな町に降り立つ。
駅前の空気は懐かしいようで、どこか胸がざわついた。
海風が頬をなでたとき、足が止まる。
「……ここ」
私が呟くより先に、誠也くんも同じように立ち止まっていた。

海が見える崖の上。
柵の向こうに広がる青と、遠くに光る白波。
『来たこと、ある気ぃする』
「私も……でもそれは“今”じゃない。前にここで、何かが終わったような……」
言葉にしながら、胸が痛んだ。
何かを失った痛み。
思い出したくないけど、思い出さずにはいられない……
そんな感覚。

『俺……誰かを残して、ここで別れた夢を見たことがある。ずっと、それが誰か分からへんかった。』
「私も。ここで、誰かに“さよなら”って言われた気がする。……でも、その声が誠也くんの声だった気がするの」
沈黙が二人を包む。
風が吹いて、涙が滲んだ。

「でも……今度は、終わらせたくない」
『うん。終わりなんかじゃなくて……ここから始めたい。』
そう言って、誠也がそっと私の手を握る。
その手の温もりに、今度こそ……という想いがじんわり滲んだ。