推しの隣で、裸のまま。

まぶたの奥に、じわっと差し込む朝の光。
意識がぼんやり浮かんだまま、私はゆっくりと目を開けた。

「……ん……」

ふかふかの布団。
真っ白な天井。
知らない部屋。
そして……

隣には、ありえない顔があった。

「……せ、誠也……?」

思わず声が出た。
そこにいたのは、テレビやライブでしか見たことがない、あの国民的アイドル・末澤誠也。
完璧な顔立ち。
柔らかそうな髪。
長いまつ毛。
けど今は、それが現実に、こんなに近くにあって。

しかも……彼も、私も、裸だった。

「…………ッ!?!?」

一気に目が覚めた。
心臓が跳ねて、息が詰まる。
私はとっさに布団を抱え込んで、体を隠した。

ここどこ!?
なんで裸!?
てかなんで推しと!?!?

頭の中がぐちゃぐちゃになる。
昨日の夜の記憶が、まるで無い。
どうしてこんな状況に……?

『……ん〜……おはよ』
隣で、誠也がゆっくりと目を開けた。
その声は眠たそうで、けど甘くて、すぐ耳の近くで鳴る。

「……えっ……えっ……?」
彼が私の顔を見るなり、一瞬目を見開いた。
けどすぐに、ふっと微笑んだ。

『……覚えてへん、んやな』
「えっ……?」
『そっか。まあ、そやと思ったわ』
私が混乱している中、彼はのんびりと布団の中で体を伸ばす。
その仕草があまりに自然で、余計におかしな現実感が胸を締めつける。

「ちょ、ちょっと待って……なんで、私……ここにいて……?」
『あぁ〜……そやな。急に目ぇ覚めたらビビるよな』
誠也はくすっと笑いながら、私のほうを見た。
その目は、テレビで見るキラキラした“アイドルの顔”とは全然ちがって、どこか素のままに近い。

『でもさ……俺は、ちゃんと覚えてるで。昨日のこと』
「えっ……?」
『そやから……心配せんでもええよ』
その言葉と笑顔に、なんか妙に安心しそうになる。
でも……待って。

私と誠也、昨日なにがあった……?

記憶のない夜。
けど、あの“推し”の視線が、まっすぐ私だけを見ている。

こうして……
私の“推しとの朝”は、記憶ゼロのまま始まった。