姫と騎士のめぐりあい

「お父様とお母様っていうより、相手の問題よ。」
「あらら。エーリヒさんに振られたの?」
「まだ振られてはない。でも『そんなんじゃ、いつまでも良い御縁に恵まれませんよ。』って言われた。エーリヒには私の縁談は他人事なのよ!」
「まぁそりゃ、王女と騎士は立場が違いすぎるもんね。」

弟の言葉はエリザベートの胸にグサッと刺さる。
けれど、
エーリヒ以外の男性と仲良くなれる自信が
エリザベートには全くない。
エーリヒか、一生独身かの
2択しか無かった。
「私が一生独身だったら、私の分もマットが面倒見てね。社交は無理だけど、子守りでもなんでもやるから。」 
「勘弁してよ、姉上。こんな口うるさい小姑がいたら、リラが可哀想だよ。」
「なんですって!?」

弟と軽口をたたきあった後、
エリザベートは自室を出てドローイングルームに向かう。
読みかけの本を置きっぱなしにしていたからだ。
その部屋には先客がいて、
母がハンカチに刺繍をしていた。
母は刺繍の達人で、
暇がある時はいつも家族の持ち物に
それぞれのモチーフを刺繍している。
サラマンダーの絵柄が見えるので、
今日は父のハンカチに刺繍しているのだろう。