姫と騎士のめぐりあい

「エーリヒ様、ヘルヴェーク伯爵令嬢がいらしています。」
秘書の報告に、エーリヒは眉を上げた。
「フレデリカが? ……こんな時間に?」
「“急ぎの用件”とのことです。」

数秒の沈黙のあと、彼は頷いた。
「通してくれ。」

扉が開き、
深紅のドレスをまとった令嬢が入ってくる。
フレデリカ・フォン・ヘルヴェーク。
社交界でも名高い実業家であり、
同時に彼の重要な取引先でもある。

かつて政略的に婚約話が持ち上がった相手だ。
だが二人は互いの意思を尊重し、
円満に破談となった。
以来、
彼女の家の海運網とロートシルト家の金融力は、
互いを支え合ってきた。

「久しぶりね、エーリヒ。
 あなた、すっかり“銀行家の顔”になったわ。」
「君こそ、ますます商人の眼になったようだ。」
軽い冗談を返しつつも、
フレデリカの表情の硬さに気づく。

「……仕事の話ではないな。」
「ええ。今日は“個人的な忠告”をしに来たの。」
フレデリカは周囲を見回し、人払いを頼む。
扉が閉じ、静寂が戻る。

そして、低い声で言った。

「――エリザベート王女の身に、危険が迫っている。」

空気が張り詰めた。

「……どういうことだ。」