姫と騎士のめぐりあい

「エリザベート様。」
「何かしら?」
「もし……もしもこの先、つらいことがあったら――」
言いかけて、エーリヒは言葉を飲み込んだ。
“俺があなたを守ります”とは、もう言えない。
“もう臣下ではない自分”が、
そんな約束をする資格はない。

彼は代わりに、少しだけ笑って言った。
「きっと、風の噂でお聞きになるでしょう。
 この国のどこかで、ひとりの元騎士が不器用に生きていると。」
「……ええ、そうね。」
エリザベートも微笑みを返す。
だが、その笑みの奥に、涙が滲んでいた。

やがて、遠くで城の鐘が鳴った。
出発を告げる音。
エリザベートはマントを整え、
ゆっくりと一歩を踏み出す。
その足取りは、
まるで何かを振り切るように静かで確かだった。

「リサっ。」
エーリヒが呼び止める。
思わずかつてのように、愛称で呼んでしまった。
少し驚いた顔をして彼女が振り返ると、
朝日が二人の間に差し込み、
世界が金色に染まった。

「元気で。……そして、どうかお幸せに。」
彼の声は穏やかで、けれど少し震えていた。
それが「さようなら」の代わりだと分かって、
エリザベートの胸に熱いものがこみ上げる。
「あなたも……ね。どうか、幸せでいて。」
彼女はそれだけ言って、微笑んだ。
涙を見せないように、強く。