姫と騎士のめぐりあい


「なぜ……突然、そんな――」
「突然じゃないわ。実はずっと考えていたことなの。王女として、もっと広い世界を知るべきだと。」
「エリザベート様……本当に、それだけですか?」
彼の瞳がまっすぐに彼女を射抜く。

エリザベートは一瞬、言葉を失った。
あの晩餐会の夜が脳裏をよぎる。
――あなたも、自分に相応しい結婚相手を探しては?
心に刺さったままの棘が、また疼く。
「……ええ、それだけよ。あなたに心配をかけることはありません。」

「俺は……」
エーリヒは一歩、踏み出しかけて――その足を止めた。
言いたい言葉が喉に詰まる。
“行くな”とは言えない。
そんな資格は、自分にはない。

「留学が実り多きものになりますように、殿下。朝早く失礼致しました。」
それだけ言って、エーリヒは深く頭を下げる。

エリザベートはその背を見送りながら、
静かに拳を握りしめた。
(これでいい……これで、いいの。私たちは――違う世界の人間だから。)
しかし、胸の奥で誰かが泣いていた。
“違う世界”なんて、本当は信じたくなかったのに。