エリザベートは返す言葉がなかった。
エーリヒの言うことは確かに正論ではあるのだが、
意中の相手から言われるとキツい。
幸せな気持ちもすっかり萎んでしまった。
気まずくなったエリザベートとエーリヒは
ダンスの輪から離れ、
エリザベートは一人にしてほしいとエーリヒに告げる。
エーリヒは何か言いたそうにしていたが、
エリザベートは立ち止まることなく
庭園へと歩いていった。

夜風にあたると幾分心も凪いでいく。
さっきのことはショックだったけれど、
不思議と目から涙は溢れなかった。
どちらかというと「あぁ、やっぱりな。」という
諦めにも似た感情が胸に渦巻いた。
エーリヒはいつもそうなのだ。

決して嫌われているわけではない(と思う)のだが、
明確な線引きをしている。
小さい頃は幼なじみとして仲良くしていたのに
いつの頃からかエーリヒは変わってしまった。
いつでもどこでも慇懃無礼な態度を崩さず、
親しく振る舞おうとするエリザベートを嗜めることも。
彼に触れようとするとさり気なく身をかわしたり、
話しかけると迷惑そうな顔をしてくる。
そんなことが重なって、
エリザベートの心の中に諦めの気持ちが
実は密かに生まれてきていた。