帰宅して、学は悶々とした気持ちを抱えていた。

　今日は照と遊びに行って、図らずも照の内面に触れて気持ちが安らいだというのに、照の家族と会って、自分の身の程知らずを露呈させてしまった。その場にいた照の態度にももやもやし、学は勝手に彼女に失望したのだ。

　しかし、照も急に現れた肉親の言葉に動揺していたに違いない。彼女は言葉を表出するのに苦労するのだから、あの場で言い返せなかったのは当たり前だ。学の事、それから自分のことを何か言われて、堂々といられないほど、照は混乱していたのかもしれなかった。

　自分だってそうだ、と学は思った。自分も照の姉に上手く答えられなかったじゃないかと。怒りで頭の中をいろいろな考えや感情が駆け巡ったものの、結局、ちゃんとした言葉にはならず、一言報いるので精いっぱいだった。自分の考えを自分の言葉で現せなかった。それは照と同じ状況だと思う。

　だから、照に失望感を抱いたのはお門違いなのだ。

　生まれてくる罪悪感をどう逃がせばいいかわからず、学は枕に顔をうずめる。自分があの時しなければならなかった行動は何かを探してしまう。しかし結局、いい案が出たところで、もう後の祭りだった。

　月曜日まで照に会わない。チャットも送る勇気が出ない。

　今度こそ、愛想をつかされたんじゃないかと学は思っていた。

　＊＊＊

　日曜日になり、学は最近では滅多にない、重たい発情期に晒されていた。身体は気怠く、肌は火照り、感じたくはないが欲情が止まらない。身体が誰かと触れ合いたいと望み、中心部がじんじんと疼いている。

　低用量抑制剤を毎日飲んでいるため、普段の学の発情期は最小限である。最新の抑制剤を飲めば大きな発情期が来る事はまれだ、と言われている。また、予定外に発情期が来ることも少ない。今日の学の周期外で強い発情期はイレギュラーな事象だった。

　屯用の抑制剤を飲めば多少は症状がマシになった。それでもだるい身体を持て余しながら、学は照のことを考えていた。

　もっと、一緒に時間を過ごしたかったし、なんならあと何冊かスケッチブックを買いに行くはずだったのにそれも反故になってしまった。おまけに、照の姉に邪魔をされるわ、自分が不甲斐ないわで、思い出すだけでいたたまれなくなってくる。

　しかし、今、学は照に会いたいと思っていた。どんな言葉を使って表現すればいいか想像は付かない。でも、昨日のように、照と一緒に楽しい話をしたい。今の自分のまとまらない気持ちを聞いてほしい。そして、照の話も聞きたい。学が照の生活で大爆笑したように、照にも学の話をして大爆笑する、そんな話を照としたかった。

　──明日。明日は多少体調が悪くても、頓服の抑制剤を飲んで、照に会いに行こう。

　友達でいてほしい、とそう伝えようと学は思っていた。