令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区――通称「特区」。その治安を守る西地区警備署遺失物課に新たな事件が舞い降りる――!
「そう言えば、冬ってどうなったんでしょうか?」
早朝、暑い~とマフラーを外しながら新人署員がベテラン署員に話しかけてきた。外にでると肌寒さはあるものの、防寒具を付けると軽く汗ばんでしまうような微妙な気温が続いている。十二月になったというのに、太陽は明るく、青空が見られる日が多い。
「確かに、この季節にしては暖かい日が続いているわね?」
「そうなんですよ! この一年季節に振り回されましたから。また、季節がいなくなったんじゃないかって」
後輩署員が話すのは、秋の失踪から始まった季節の混乱だろう。夏は残業し、帰って来た秋の元には冬が日参。おかげで猛暑と不安定な天気が続いたのだ。
そんな特区の異常気象を締めくくるように、季節の番狂わせが起こってもおかしくはない。
ピンポーン。
今度は冬がどこかへ行ったんじゃないでしょうね……、署員二人の間にそんな空気が流れた。その直後、西地区警備署のチャイムが鳴った。朝一番、仕事の始まりである。
「冬が行方不明?」
複数の冬の関係者が捜索依頼を出しに警備署に集まっていた。雪虫、木枯らし、クリスマス、初雪などの冬の風物詩が揃って遺失物課に詰め掛けている。
「冬にならないと我々も出番がなくて」
「冬はしっかりした性格ですから、我々にもどのタイミングで出てきてほしいかを細かく指定していたんです。それが、急に連絡が取れなくなってしまって……」
ベテラン署員は一度冬に会ったことがある。スーツに雪だるまの顔を乗っけたイケボの冬は、仲間の秋に言わせると堅物で几帳面。冬のイベントを日付単位で管理し、秋のイベントのスケジュールも決めようとしていたエピソードもあった。
冬の風物詩たちが言う通り、まじめというのはうなずける。
「行方不明者として受理します。状況を確認しますので、まずは事情の聴取を――」
――。
冬が見つかったのは、陽の当たらない民家の裏庭だった。解けかけた雪だるまが崩れかけているのを家主の老人が発見したのである。
「まさか、冬だと思わなかったよ……。どおりで、最近、家の中が寒いと思ったんだよねえ。古い家だし、老朽化かと思ってたけど」
通報を受けて署員たちが駆け付けると、雪だるまの顔はぼろぼろザクザクの氷の塊になっていた。海苔のような眉毛は八の字になり、話す事もままならないらしい。
それでも、几帳面な性格らしく、署員が用意したバケツの中でかたじけない、と凛々しい声でお礼を言った。
バケツにいっぱいザク雪と会話をしながら、警備署へと戻る。さてこの解けかけた冬をどこで保護するべきか。
ベテラン署員が持っているバケツの中身を見て、後輩署員が嬉しそうに声を上げた。
「わあ、先輩! 雪ですね? 降り始めたんですか?」
「これが、冬よ! とりあえず冷凍庫に入れるわ。場所を開けて!」
***
警備署内にある冷凍庫の扉をノックする。
「開けるわよ」
ベテラン署員が開いた引き出しの中には、きりりとした眉毛をした小さな雪だるまが鎮座していた。一度解けてしまったため少し表面がつるつるになっているが、調子は悪くなさそうだ。
「ご機嫌はいかがかしら」
「ああ、ありがとう。徐々に良くなっている」
こじんまりとしてしまったものの、テノールのよく通る声は健在。今回の騒動の説明を聞いてもいないのに話すのは、その性格からだろうか。
「秋が心配で傍に行ったり来たりしているうちに、汗をかいて、気が付けば解けてしまっていたんだ。急いで日陰に入ったはいいが、秋の温かさが続くとやはり形を保つのが難しくてな!」
「面倒見がいいのも考え物ですね」
「いやはや、恥ずかしいばかり」
季節がまた少しずれてしまう、と冬が唸った。
「まあまあ、季節はグラデーションがあるらしいから……。そんな事より、お見舞いですよ」
「うん? どなたかな?」
警備署の詰所に雪崩れ込んできたのは、冬の風物詩たち。冬が見つかったと聞いて、一斉に集まって来たのである。
「このままだとクリスマスもお正月も来なくなるところだったわ!」
大寒と成人式が顔を見合わせながら頷く。
もしかして、カレンダー上の話じゃなくて、冬が来ないと冬のイベントって、本当にこないのだろうか。
もしかして、年末年始休暇も……? ベテラン署員の脳裏によぎる不穏な考え。だとすると、冬には早めに復活してもらわないと困る。
季節外れだけど、氷でも削って雪だるまを作ろうかしら……、どうすれば雪だるまを元の大きさまで復活させられるのか頭が回転し始める、署員であった。
「そう言えば、冬ってどうなったんでしょうか?」
早朝、暑い~とマフラーを外しながら新人署員がベテラン署員に話しかけてきた。外にでると肌寒さはあるものの、防寒具を付けると軽く汗ばんでしまうような微妙な気温が続いている。十二月になったというのに、太陽は明るく、青空が見られる日が多い。
「確かに、この季節にしては暖かい日が続いているわね?」
「そうなんですよ! この一年季節に振り回されましたから。また、季節がいなくなったんじゃないかって」
後輩署員が話すのは、秋の失踪から始まった季節の混乱だろう。夏は残業し、帰って来た秋の元には冬が日参。おかげで猛暑と不安定な天気が続いたのだ。
そんな特区の異常気象を締めくくるように、季節の番狂わせが起こってもおかしくはない。
ピンポーン。
今度は冬がどこかへ行ったんじゃないでしょうね……、署員二人の間にそんな空気が流れた。その直後、西地区警備署のチャイムが鳴った。朝一番、仕事の始まりである。
「冬が行方不明?」
複数の冬の関係者が捜索依頼を出しに警備署に集まっていた。雪虫、木枯らし、クリスマス、初雪などの冬の風物詩が揃って遺失物課に詰め掛けている。
「冬にならないと我々も出番がなくて」
「冬はしっかりした性格ですから、我々にもどのタイミングで出てきてほしいかを細かく指定していたんです。それが、急に連絡が取れなくなってしまって……」
ベテラン署員は一度冬に会ったことがある。スーツに雪だるまの顔を乗っけたイケボの冬は、仲間の秋に言わせると堅物で几帳面。冬のイベントを日付単位で管理し、秋のイベントのスケジュールも決めようとしていたエピソードもあった。
冬の風物詩たちが言う通り、まじめというのはうなずける。
「行方不明者として受理します。状況を確認しますので、まずは事情の聴取を――」
――。
冬が見つかったのは、陽の当たらない民家の裏庭だった。解けかけた雪だるまが崩れかけているのを家主の老人が発見したのである。
「まさか、冬だと思わなかったよ……。どおりで、最近、家の中が寒いと思ったんだよねえ。古い家だし、老朽化かと思ってたけど」
通報を受けて署員たちが駆け付けると、雪だるまの顔はぼろぼろザクザクの氷の塊になっていた。海苔のような眉毛は八の字になり、話す事もままならないらしい。
それでも、几帳面な性格らしく、署員が用意したバケツの中でかたじけない、と凛々しい声でお礼を言った。
バケツにいっぱいザク雪と会話をしながら、警備署へと戻る。さてこの解けかけた冬をどこで保護するべきか。
ベテラン署員が持っているバケツの中身を見て、後輩署員が嬉しそうに声を上げた。
「わあ、先輩! 雪ですね? 降り始めたんですか?」
「これが、冬よ! とりあえず冷凍庫に入れるわ。場所を開けて!」
***
警備署内にある冷凍庫の扉をノックする。
「開けるわよ」
ベテラン署員が開いた引き出しの中には、きりりとした眉毛をした小さな雪だるまが鎮座していた。一度解けてしまったため少し表面がつるつるになっているが、調子は悪くなさそうだ。
「ご機嫌はいかがかしら」
「ああ、ありがとう。徐々に良くなっている」
こじんまりとしてしまったものの、テノールのよく通る声は健在。今回の騒動の説明を聞いてもいないのに話すのは、その性格からだろうか。
「秋が心配で傍に行ったり来たりしているうちに、汗をかいて、気が付けば解けてしまっていたんだ。急いで日陰に入ったはいいが、秋の温かさが続くとやはり形を保つのが難しくてな!」
「面倒見がいいのも考え物ですね」
「いやはや、恥ずかしいばかり」
季節がまた少しずれてしまう、と冬が唸った。
「まあまあ、季節はグラデーションがあるらしいから……。そんな事より、お見舞いですよ」
「うん? どなたかな?」
警備署の詰所に雪崩れ込んできたのは、冬の風物詩たち。冬が見つかったと聞いて、一斉に集まって来たのである。
「このままだとクリスマスもお正月も来なくなるところだったわ!」
大寒と成人式が顔を見合わせながら頷く。
もしかして、カレンダー上の話じゃなくて、冬が来ないと冬のイベントって、本当にこないのだろうか。
もしかして、年末年始休暇も……? ベテラン署員の脳裏によぎる不穏な考え。だとすると、冬には早めに復活してもらわないと困る。
季節外れだけど、氷でも削って雪だるまを作ろうかしら……、どうすれば雪だるまを元の大きさまで復活させられるのか頭が回転し始める、署員であった。



