令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区――通称「特区」。その治安を守る西地区警備署遺失物課に街の住人がやって来た。
「あのー、秋を探して欲しいんですけど」
「……秋を?」
この夏、遺失物課は四季に振り回されていた。秋が失踪したと夏がやってきたり、夏を誤魔化したりして駆けずり回ったのだ。秋の出頭で無事に事件は解決したが、今度は街の住人が秋を探して欲しいと言っている。
確かに、ここ数日寒さが強まっている。秋が「まかせといて~」と言ったわりに、吹く風が冷たい。秋の過ごしやすい日が続くと思っていたが、おかしいな。布団も一枚厚いものを増やした。し、肌着も冬用の物を出したばかりだ。
冬に近づけば服も布団も厚くなるものだが、秋はもう少し長くはなかっただろうか?
「また、秋がどこかに行っちゃったんじゃないでしょうか?」
住人が心配そうに言う。
夏に秋が失踪したのは夏と喧嘩をしたからだ。署員と季節談義をして機嫌を直したように見えた秋が再び失踪……。今度はどうしたのだろう。
再び厄介な依頼を承った遺失物課であった。
***
秋を見つけるのに今度は苦労はしなかった。辺りを周ると、綺麗に黄色くなった木を見つけた。その傍らでスタイルのいい女の子が 落ち葉を集めている
「こんにちは秋さん」
「あ、警備署の署員さんだ」
どしたん~? と屈託なく寄ってくる秋は何か事情を抱えているようには見えない。
「街の住人があなたを探しています。秋がなくなって急に冬になりそうだと。あなたはここにいるから、他に何か事情があるのかしら?」
署員の言葉を聞いて、秋がコーラルのチークが塗られた頬を膨らませる。それな! と途端に不機嫌になった。
「マジ、むかつくんだけど。冬が来てるの! 冬が!」
「冬が来ている?」
冬が来始めているのはわかる。しかし、この秋がいう冬はどうやら単なる冬ではなさそうだ。
「私がまた逃げやしないか、冬が見張ってるわけ。三日にいっぺんくらいでうちに来て、チェックして帰ってるんだよ? めっちゃうざい」
「ちなみに、冬が来るとどうなるの?」
「そんなん、寒くなるに決まってんじゃん」
やっぱりね……、署員が額に手を当てて考え込む。他の季節と同様、冬も現れると冬になるのだろう。
その二人の後ろからイケボが声をかけてきた。途端に空気が澄んで湿気を帯びる。署員が思わず付けていたストールをおさえた。イチョウの葉が落ちている道には霜がはっていて、振り返るとパリと鳴る。背後には、冷気をまとった男。長身のスーツの上に雪だるまの頭が乗っかっていた。
「こんにちは冬さん」
「こんにちは、遺失物課の署員さん。秋がお世話になったようだね」
冬の言葉を遮って、世話になってねーし、と愚痴る秋。それをとりなして、署員は切り出した。
「季節が少々前倒しになっています。これはあなたが秋を訪れているからですね?」
署員の後ろでうんうん頷く秋。
「そうかもしれません。しかし、夏に逃走した秋。まだまだ未熟です。誰かが見守ってやらないと……」
「だからってちょいちょい来てたら冬になっちゃうじゃん!」
「今年はちゃんと秋があるんだ。これを機にちゃんと季節を四等分しないと。もう少ししたら交代なのだから一緒にいても支障はない」
「夏が長かった分、まだ秋でもいいじゃん。紅葉もしてないし」
「誰がずらしたと思っている」
「っていうか、なんで一緒にいなきゃいけないわけ? 意味わかんないんだけど」
喧嘩をし始める二人の間で双方の主張を聞く警備署署員。しかし、ここでどちらに加勢をしなければいけないかはわかっている。まだ寒いのは嫌なのだ。今年は猛暑だったぶん、もっと爽やかな空気を満喫して生活したいのである。
「冬は秋を見張りたい」
「見張りたいわけじゃないさ。ただ、まだ心配で」
「秋は見張られたくない」
「心配してくれるのは、こっちのせいだけど。でも、過保護すぎ」
署員が二人の顔を見て頷いた。まだまだ、冬に来てもらっては困る。しかし、こうして秋の元に来る。その冬に対抗するとなれば、温かくするしかないのだ。
「お二人の関係について、私は何も言いません。ですが、この街に来る以上、冬には厚着をしてもらいます」
何故という顔で雪だるまの眉毛が上がった。
「あなたが季節を回すのを第一に考えているのはわかりました。しかし、夏が長かった分、街の住人は秋を満喫したいのです。……御免!」
この図体から冷気が出ているのが悪い。署員は付けていたストールを取ってスーツ姿の雪だるまに巻き付けた。
「あ! やっちゃえ~!」
秋も乗ってきて、被っていた帽子をかぶせる。
「秋のところへ来る間、あなたにはこの格好をしてもらいます。それができないなら、秋のところへはしばらく来ず、しかるべき時に秋と交代してください。」
防寒具まみれにされて、水の汗をかいてとけかけた冬はすごすごと帰って行った。
「やっぱ、遺失物課しか勝たん~♪」
ギャルが万歳して嬉しがる。
「今日はたまたまあなたの味方でしたが、冬が遅れたせいで春に食い込むのも困りますから、適切な四季の回転にご協力ください」
署員の発言にりょーかい! と敬礼をしながら笑う秋であった。
「あのー、秋を探して欲しいんですけど」
「……秋を?」
この夏、遺失物課は四季に振り回されていた。秋が失踪したと夏がやってきたり、夏を誤魔化したりして駆けずり回ったのだ。秋の出頭で無事に事件は解決したが、今度は街の住人が秋を探して欲しいと言っている。
確かに、ここ数日寒さが強まっている。秋が「まかせといて~」と言ったわりに、吹く風が冷たい。秋の過ごしやすい日が続くと思っていたが、おかしいな。布団も一枚厚いものを増やした。し、肌着も冬用の物を出したばかりだ。
冬に近づけば服も布団も厚くなるものだが、秋はもう少し長くはなかっただろうか?
「また、秋がどこかに行っちゃったんじゃないでしょうか?」
住人が心配そうに言う。
夏に秋が失踪したのは夏と喧嘩をしたからだ。署員と季節談義をして機嫌を直したように見えた秋が再び失踪……。今度はどうしたのだろう。
再び厄介な依頼を承った遺失物課であった。
***
秋を見つけるのに今度は苦労はしなかった。辺りを周ると、綺麗に黄色くなった木を見つけた。その傍らでスタイルのいい女の子が 落ち葉を集めている
「こんにちは秋さん」
「あ、警備署の署員さんだ」
どしたん~? と屈託なく寄ってくる秋は何か事情を抱えているようには見えない。
「街の住人があなたを探しています。秋がなくなって急に冬になりそうだと。あなたはここにいるから、他に何か事情があるのかしら?」
署員の言葉を聞いて、秋がコーラルのチークが塗られた頬を膨らませる。それな! と途端に不機嫌になった。
「マジ、むかつくんだけど。冬が来てるの! 冬が!」
「冬が来ている?」
冬が来始めているのはわかる。しかし、この秋がいう冬はどうやら単なる冬ではなさそうだ。
「私がまた逃げやしないか、冬が見張ってるわけ。三日にいっぺんくらいでうちに来て、チェックして帰ってるんだよ? めっちゃうざい」
「ちなみに、冬が来るとどうなるの?」
「そんなん、寒くなるに決まってんじゃん」
やっぱりね……、署員が額に手を当てて考え込む。他の季節と同様、冬も現れると冬になるのだろう。
その二人の後ろからイケボが声をかけてきた。途端に空気が澄んで湿気を帯びる。署員が思わず付けていたストールをおさえた。イチョウの葉が落ちている道には霜がはっていて、振り返るとパリと鳴る。背後には、冷気をまとった男。長身のスーツの上に雪だるまの頭が乗っかっていた。
「こんにちは冬さん」
「こんにちは、遺失物課の署員さん。秋がお世話になったようだね」
冬の言葉を遮って、世話になってねーし、と愚痴る秋。それをとりなして、署員は切り出した。
「季節が少々前倒しになっています。これはあなたが秋を訪れているからですね?」
署員の後ろでうんうん頷く秋。
「そうかもしれません。しかし、夏に逃走した秋。まだまだ未熟です。誰かが見守ってやらないと……」
「だからってちょいちょい来てたら冬になっちゃうじゃん!」
「今年はちゃんと秋があるんだ。これを機にちゃんと季節を四等分しないと。もう少ししたら交代なのだから一緒にいても支障はない」
「夏が長かった分、まだ秋でもいいじゃん。紅葉もしてないし」
「誰がずらしたと思っている」
「っていうか、なんで一緒にいなきゃいけないわけ? 意味わかんないんだけど」
喧嘩をし始める二人の間で双方の主張を聞く警備署署員。しかし、ここでどちらに加勢をしなければいけないかはわかっている。まだ寒いのは嫌なのだ。今年は猛暑だったぶん、もっと爽やかな空気を満喫して生活したいのである。
「冬は秋を見張りたい」
「見張りたいわけじゃないさ。ただ、まだ心配で」
「秋は見張られたくない」
「心配してくれるのは、こっちのせいだけど。でも、過保護すぎ」
署員が二人の顔を見て頷いた。まだまだ、冬に来てもらっては困る。しかし、こうして秋の元に来る。その冬に対抗するとなれば、温かくするしかないのだ。
「お二人の関係について、私は何も言いません。ですが、この街に来る以上、冬には厚着をしてもらいます」
何故という顔で雪だるまの眉毛が上がった。
「あなたが季節を回すのを第一に考えているのはわかりました。しかし、夏が長かった分、街の住人は秋を満喫したいのです。……御免!」
この図体から冷気が出ているのが悪い。署員は付けていたストールを取ってスーツ姿の雪だるまに巻き付けた。
「あ! やっちゃえ~!」
秋も乗ってきて、被っていた帽子をかぶせる。
「秋のところへ来る間、あなたにはこの格好をしてもらいます。それができないなら、秋のところへはしばらく来ず、しかるべき時に秋と交代してください。」
防寒具まみれにされて、水の汗をかいてとけかけた冬はすごすごと帰って行った。
「やっぱ、遺失物課しか勝たん~♪」
ギャルが万歳して嬉しがる。
「今日はたまたまあなたの味方でしたが、冬が遅れたせいで春に食い込むのも困りますから、適切な四季の回転にご協力ください」
署員の発言にりょーかい! と敬礼をしながら笑う秋であった。



