西地区警備署事件録2024

 秋がスケジュール手帳と睨めっこしながら、ペンをくるくると回していた。イベントは盛りだくさん。夏が少し伸びた分だけ、少し短くなった秋にいろいろと詰め込んでいかなければならない。

 何故、秋が短くなったのか。

 この夏、秋は季節の風物詩について夏と喧嘩したのだ。夏は秋を「芸術の秋」とひとくくりにし、「食欲の秋」をおまけにつけた。腹いせで秋は失踪してやったのだが――残業でもしてしまえばいいと思って――、そのぶん秋が短くなったのである。そして、秋のイベントをみちみちに詰め込まなくてはいけなくなっているのだった。

「十月の最終週はハロウィンのイベントやって~。焚き火でお芋会やって~。あ、先に栗拾いもやったら、ほくほくの栗食べられるかも。来月はー……、そろそろ、紅葉ありそうじゃん? だから、ピクニック企画やって~。あ、だったらその日は夏を呼んでちょっと暖かくしてもらおうかなぁ。寒い中でお弁当食べるの、嫌だもんね? 文化の日は図書館で読書イベやって……、絵本の読み聞かせとか? あとは勤労感謝の日ぃ? 勤労感謝の日って、なんか冬を思い出して嫌……」
「誰を思い出して嫌だって?」
「ぎゃっ、冬!」

 背後からイケボと冷気が降って、秋の首を撫でた。振り向けばスーツの上に雪だるまの顔を持った季節――冬がいる。

「やだ、もう。びっくりさせないでよ。っていうか、覗くなし」
「職務放棄して失踪した割には、ちゃんと秋をやってるなって」
「別に仕事が嫌いでいなくなったわけじゃないんだけど。それに、ちゃんと秋っぽい月には戻ってきたよ」

 九月の頭はまだ夏に仕事を任せていたものの、十月には秋は警備署に出頭し――捜索届がだされていたために――、夏と季節のバトンタッチをした。夏も様子を見に顔を出すが、既に季節は秋真っ盛りである。

「らしいな。感心、感心」
「っていうか、冬はまだ先だけど?」

 秋が訝し気に冬を見る。

 この冬ったら、面倒見がいいのかええかっこしいなのか、他の季節に色々口を出してくる。どの季節でもたまに極寒の日があるのはそのためだ。性格もきっちりで、今日もまた何か小言でも言われるのだろうか。

 ……だけど、今回の秋が逃亡した事件では、夏と秋の間をとりなしてくれて、事なきを得た訳で。

 今、あまり秋は冬に強く出られない。

 そんな秋の内心は露知らず、秋の手帳を後ろから覗き込んで、冬は何やら難しい顔をしている。

「秋……、これは十月中にするイベントなのか?」

 十月の残り日数に栗拾いと芋煮会と焚き火とお祭り……と記載されている秋のスケジュール帳を指差して言った。確かに、冬の言う通り、残り五日間では少し厳しい日程だ。

「一応、予定だけ立てて置いて、とりま、出来なかったら十一月に回そうかな~って」
「イベントを次の月に回す……!?」

 十一月にも三十日分日付があるし、と話す秋の返事が聞こえないかのように、冬が信じられないという視線で秋を見た。海苔のような眉毛を下げて、頭をぶんぶんと振る。そのせいで、秋の手帳に雪だるまに付いた雪がおちた。

「ちょっと、滲んじゃうじゃん!」
「いけない。イベントを次の月に回すなんて、それは駄目だ。……秋、俺が手伝ってやる。そのスケジュール帳を貸しなさい」

 雪だるまの顔の眉毛が吊り上がる。やる気に満ちた顔をして、秋のペンをひったくった。

「ちょ、ちょっと。何?」

 秋の手帳に猛スピードで予定を書き込み始める冬。

 この日の午前中は栗拾いをして、お昼に芋を掘って、夕方には焚き火で秋の味覚を楽しみ、お祭りの日には秋の星座の会も実施。運動会の日の午後は文化の日の準備……。午前と午後にみっちりと詰められたイベント。分刻みスケジュールの日もある。

 あっという間に、秋の手帳はボールペンの字で真っ黒になってしまった。カラフルなペンで絵も描いていたかわいい手帳は見る影もない。

「ちょ、ちょっと待って、そんなぎちぎちスケジュールにしたって、紅葉いつになるかわかんないし、運動会だって町内会とか老人会とかいろいろ調整しなくちゃいけないし」
「秋、いいか。イベントは日にちが決まってるものなんだ。クリスマスは十二月二十四日で、お正月は一月一日で成人の日は一月の第二月曜日で節分は二月三日だろう」

 確かに、冬のイベントって日付が決まっているものが多いかも~……、と秋は納得しかけたが、それとこれとは話が違う。

「いや、冬のイベントと秋のイベントは違うし!?」
「何が違うんだ!!」
「冬のイベントはカレンダー通りに進むからっていって、秋のイベントはカレンダー通りには進まないんだからね!?」

 野菜や果物の収穫とか紅葉とかは気温や天気に左右されるし、外のイベントだって涼しすぎれば実行できないと冬に説明する。

「いやしかし、運動会はあらかじめ日にちを決めてできるだろう!」
「運動会だって、天気悪かったらできないじゃん!」
「音楽を奏でるか、絵を描くかくらい、日程を決めなさい!!」
「その日の気分によるでしょ!?」

 さて、どう冬を納得させたものか。

 きっちりしすぎて夏よりめんどくさいかも~~と頭を抱える秋であった。