余命半年のわたしとお兄様

遊園地に行った日から1週間が過ぎた。今日は三連休の1日目。今日ももちろんお兄様との思い出作りはある。しかも1回だけの宿泊なの!急な予約だから宿なんて取れないと思ったけどお兄様は結構前からこれを計画してたらしい。いくのは特別予約の2泊三日の2人だけのツアー。あとガイドさんもいるらしい。楽しみー。準備はもうできてるし、あとはお兄様を待つだけ。
「あいらおはよう。早速だけど出かけよっか」
旅行だから、私もお兄様も大きなリュックを背負っている。家の前には黒いタクシーが迎えにきていた。
「ご予約の若山純様でよろしいでしょうか。」
とスーツを身に纏った運転手さんがお兄様に尋ねた。
「はい。」
とお兄様は簡潔に答えた。そんな所までがお兄様らしい。
お兄様の計画では大きな駅まではタクシーに乗ってそこから特急に乗るらしい。あと、今回の旅行先は静岡県の下田。私の憧れの場所でもあるんだ。
特急で。お兄様は通路側で私は窓側。まだ東京を出たばかりだから、海は見えない。お兄様は気にする様子もなくスマホをいじっていた。そんな時。スマホが鳴った。着信を見ると海外に単身赴任しているお父さんから。でもお父さんとお母さんは離婚している。原因はお母さんが死産した男の子。死産した男の子のことで悲しんでいるお母さんにお父さんが無責任なひどい言葉をかけたからそこから喧嘩になって勢いで離婚したらしい。もちろん再婚しようだとかそんな話は欠片もない。お父さんは単身赴任先のイギリスで別の女えっとイザベラさん(多分)と結婚したらしい。私はお母さん派だから基本的にお父さんとやりとりはしないし電話は全然かけない。それはお父さんの方もわかっているらしい。そんなお父さんが電話をかけてくるのは本当に大事な時だけ。今までかけてきたのは再婚の知らせを伝える時だけ。
「もしもし。あいらかい?」
男の人にしては高めの声でお父さんが尋ねた。尋ねると言うより挨拶って感じだけど。
「そうだけど。何?」
私にしては冷たい声が自然と出た。お兄様との旅行中だからでもあるし。
「イギリスで暮らさないかい?」
「は?イギリスで暮らす?」
談話室中に私の声がこだました。だってイギリスで暮らすってことはお父さんと暮らすってことでしょ。絶対に嫌だし、日本語しか出来ないし、友達やお兄様もいる。そして私は余命が約三ヶ月。意味もないことはしない。
「お母さんはな繊細すぎるんだ。だから少し励ましただけでも相手が酷いことを言っていると誤解して相手を徹底的に攻撃してしまう。お父さんはそれで傷付いた。だからあいらにはそんな思いをしてほしくないんだ。」
何それ。お母さんの悪口言いたいだけってこと?イライラをぶつける相手が欲しいってこと?あーこっちこそイライラするんだけど。意味分かんない!
「やだから」
私はキッパリとそう告げた。変に勘違いされるのは困る。
「本当にあいらはわかってないな。あともう一つ。よく分かんない大学生、若山純が同棲してるんだろ。あいつにだけは心を許すな。一緒にいたりは絶対するな。」
どうしてお父さんがお兄様のことを知ってるの。このことは後でお兄様に言ってみよう。きっと何か教えてくれるはず。