「きゃ〜!ファントム様かっこいい!」

頰を赤く染め、羨望の眼差しで一人の女性がテレビに釘付けになっている。彼女の名前はヨル。この探偵事務所で助手として働いている。しかし彼女は今、仕事の手を止めて昨夜起きた怪盗による犯行を見るのに夢中だ。

『この「ヴァンパイアの涙」はーーー』

怪盗ファントムが犯行が成功したことを告げようとする。赤い顔でヨルは言葉の続きを待っていた。しかし、テレビ画面が真っ暗になる。電源を切られたのだ。

「おい。仕事中に何サボってんだ。給料下げるぞ」

「酷い!ちょっとくらいいいじゃないですか〜。今、誰も依頼人来てないんだし!」

ヨルは振り返って頰を膨らませる。後ろにいつの間にか、この事務所の社長兼探偵がいた。名前はアメ。黒髪にアメジストを思わせる紫の目を持った青年である。

「怪盗ファントム様の華麗なる犯行ですよ!?」

ヨルの必死の懇願にアメは苛立ちが募る。ヨルが普段、動物番組や子どもが買い物に行く番組を見ているのは何とも思わない。しかし、怪盗ファントム関連になると何故かアメは苛立ちを覚えてしまう。それが何故なのか、本人にもわからない。