満月が夜の闇を照らしていく。巨大なビルを大勢の人間が取り囲んでいた。制服姿の警察官からスーツを着た刑事、民間人まで様々な人がビルの屋上を見上げている。

ビルの屋上には、一人の男の姿があった。闇に溶け込むような真っ黒なタキシードに大きなシルクハット、整った顔の目元は仮面で隠されている。

男はポケットから何かを取り出した。月明かりに照らされ、キラリとそれは光る。大きな赤い宝石が男の手にはあった。それを掲げて男は言う。

「この「ヴァンパイアの涙」は私、怪盗ファントムが頂いた!」

民間人や警察官が騒ぐ声など気にも止めず、怪盗ファントムは姿を消してしまう。まるで怪盗ファントムなど初めからそこにいなかったように……。

しかし、盗まれた大きな宝石の存在が、彼がその場にいたことを証明していた。



東の島国にある探偵事務所は忙しい。何故なら、従業員が社長兼探偵とその助手の二人しかいないからだ。依頼人の相談を聞くだけでなく、書類整理などやるべきことがたくさんあるのだがーーー。