高校の校門まで50メートルもないので、あっという間に到着した。
「確か、ここでも撮ってたよな。文化祭のシーンの最初に主人公のレンが門から入ってまだ人気がない校舎へ向かうところ」
「そうだね。その後はちょっと混んでるシーンで、階段の側で一真さんと紀花さんが話してるところだった」
「行ってみようか。あ、でもその前に屋台が出てたところも通るからそこ教えるよ」
「うん、ありがとう」
十真君は少し歩いたところで足を止める。
「ここ」
やや広い、校舎の前にあるエリアに今は何もない。樹々が植えられ、その向こうに花壇があるだけだ。でも校舎の配置から、その場所にいくつもの屋台があった場所だと解る。
「あ、ほんとだ」
「今年の文化祭でもここに屋台が出てたよ。うちのクラスは屋台じゃなかったから出てなかったけど、ポップコーンとか食べた」
うちの高校の文化祭はまだなので、高校の文化祭はまだ経験していなかった。何だか羨ましい。中学でも文化祭はあったけれど、生徒だけの小規模なものだったから、高校の文化祭には憧れがある。
私は一度スマホを取り出し、映画の文化祭のシーンを早送りして確認する。
ちょうどお姉ちゃんがたこ焼きを焼いてた屋台がある場所を確認できた。ついその位置までちょこちょこ歩いていき、そこに立ってみる。ここで役名のないお姉ちゃんがたこ焼きを焼いて、ショウタとユウミにたこ焼きを渡したのだ。何だかちょっと不思議で面白かった。
映画の中で使われているシーンとはいえ、文化祭の最中に撮影したのだ。六年前の文化祭で、それは本当に起こったことなのだ。
「エレナさん、お姉さんが出てきたところを見に来たんだ? 仲がいいんだね」
十真君は私のことを面白そうに見ながらそう問いかける。正確には私の手のあたりを見ている。無意識のうちに指がたこ焼きをひっくり返しているポーズを真似ていたらしい。ものすごく恥ずかしかった。
「わ、仲はいい方だと思うけど、わざわざお姉ちゃんの聖地巡礼するほどじゃなくて……そうじゃなくて」
十真君のお兄さんを見に来たんです──。
そう言えたら多分気が楽だったんだろう。でも、それがものすごく失礼なことだというのも解っていた。ただ、曖昧にごまかして一真さんの弟である十真君に案内してもらうのは、それ以上に失礼だ。
十真君はいい人だ。一真さんとそっくりの顔で、明るく笑ってくれる。私のしていることはそういう彼の善意を搾取してるみたいな気分だったのだ。
だからこそそういう不義理はしたくない。
そこまで汚い人間になりたくない。
「あのねっ、私、映画の中の一真さん……ううん、カキザキショウタのキャラクターが気になって、それで見に来たの!」
十真君は一瞬、ぽかんとした表情になった。
それでも気を取り直して私の言葉を聞こうとしてくれているのを見て、何とか言葉を続けた。
「あの映画を見たのは本当に偶然だったんだけど、あの中で……みんな楽しそうで、もちろんお姉ちゃんだってそうで……その中でカキザキショウタが何だか眼から離れなくて……見に来てた」
こんなことを人に言うのは抵抗がある。
まして、十真君はショウタを演じた一真さんの弟なのだ。恥ずかしい。みっともない。私が同じ立場ならこんなこと言われても絶対気持ち悪いはずだ。何より私が一番私のことが気持ち悪くてたまらない。
「そうかもしれないしそうじゃないかもしれないけど、映画を見てる時には、ショウタを好きになってたんだと思う。リカと一緒にいるところを見ても、嫉妬するとかそういうのは全然ないんだけど、ただ……いいなあって思ってた……どきどきしてた……」
こんなことを男の子に、しかもその人の身内である人に言うのはすごく恥ずかしくてみっともない。
何だか鼻がつんとしてきた。
このまま泣いたらどうしよう。必死で瞬きをする。
「ショウタを見てて素敵だなって思ってたのは本当で、でもそれは亡くなった一真さんの身内の十真君や家族の人も失礼なことをしてもいい訳じゃなくて。ああもう何を言いたいのか自分でも解らない。ごめんね」
「エレナさん……」
十真君は少し困ったように私を見ていた。
ただ、私が思っていたよりもそれはずっと軽いもので、身内に失礼な言動を取った人に向けての嫌悪感とは思えなかった。何だか別のことに困っているようだった。
「そんなに深刻に考えなくてもいいと思うけどな。映画見て、いい感じのキャラがいて、撮影場所が普通に行ける程度に近かったから見に来たくらいのことだよね」
「そう言われればそうとも言えるんだけど……」
十真君の言葉とは何となくニュアンスが違うような気がしたけれど、うまく説明できる気がしなかった。
「確か、ここでも撮ってたよな。文化祭のシーンの最初に主人公のレンが門から入ってまだ人気がない校舎へ向かうところ」
「そうだね。その後はちょっと混んでるシーンで、階段の側で一真さんと紀花さんが話してるところだった」
「行ってみようか。あ、でもその前に屋台が出てたところも通るからそこ教えるよ」
「うん、ありがとう」
十真君は少し歩いたところで足を止める。
「ここ」
やや広い、校舎の前にあるエリアに今は何もない。樹々が植えられ、その向こうに花壇があるだけだ。でも校舎の配置から、その場所にいくつもの屋台があった場所だと解る。
「あ、ほんとだ」
「今年の文化祭でもここに屋台が出てたよ。うちのクラスは屋台じゃなかったから出てなかったけど、ポップコーンとか食べた」
うちの高校の文化祭はまだなので、高校の文化祭はまだ経験していなかった。何だか羨ましい。中学でも文化祭はあったけれど、生徒だけの小規模なものだったから、高校の文化祭には憧れがある。
私は一度スマホを取り出し、映画の文化祭のシーンを早送りして確認する。
ちょうどお姉ちゃんがたこ焼きを焼いてた屋台がある場所を確認できた。ついその位置までちょこちょこ歩いていき、そこに立ってみる。ここで役名のないお姉ちゃんがたこ焼きを焼いて、ショウタとユウミにたこ焼きを渡したのだ。何だかちょっと不思議で面白かった。
映画の中で使われているシーンとはいえ、文化祭の最中に撮影したのだ。六年前の文化祭で、それは本当に起こったことなのだ。
「エレナさん、お姉さんが出てきたところを見に来たんだ? 仲がいいんだね」
十真君は私のことを面白そうに見ながらそう問いかける。正確には私の手のあたりを見ている。無意識のうちに指がたこ焼きをひっくり返しているポーズを真似ていたらしい。ものすごく恥ずかしかった。
「わ、仲はいい方だと思うけど、わざわざお姉ちゃんの聖地巡礼するほどじゃなくて……そうじゃなくて」
十真君のお兄さんを見に来たんです──。
そう言えたら多分気が楽だったんだろう。でも、それがものすごく失礼なことだというのも解っていた。ただ、曖昧にごまかして一真さんの弟である十真君に案内してもらうのは、それ以上に失礼だ。
十真君はいい人だ。一真さんとそっくりの顔で、明るく笑ってくれる。私のしていることはそういう彼の善意を搾取してるみたいな気分だったのだ。
だからこそそういう不義理はしたくない。
そこまで汚い人間になりたくない。
「あのねっ、私、映画の中の一真さん……ううん、カキザキショウタのキャラクターが気になって、それで見に来たの!」
十真君は一瞬、ぽかんとした表情になった。
それでも気を取り直して私の言葉を聞こうとしてくれているのを見て、何とか言葉を続けた。
「あの映画を見たのは本当に偶然だったんだけど、あの中で……みんな楽しそうで、もちろんお姉ちゃんだってそうで……その中でカキザキショウタが何だか眼から離れなくて……見に来てた」
こんなことを人に言うのは抵抗がある。
まして、十真君はショウタを演じた一真さんの弟なのだ。恥ずかしい。みっともない。私が同じ立場ならこんなこと言われても絶対気持ち悪いはずだ。何より私が一番私のことが気持ち悪くてたまらない。
「そうかもしれないしそうじゃないかもしれないけど、映画を見てる時には、ショウタを好きになってたんだと思う。リカと一緒にいるところを見ても、嫉妬するとかそういうのは全然ないんだけど、ただ……いいなあって思ってた……どきどきしてた……」
こんなことを男の子に、しかもその人の身内である人に言うのはすごく恥ずかしくてみっともない。
何だか鼻がつんとしてきた。
このまま泣いたらどうしよう。必死で瞬きをする。
「ショウタを見てて素敵だなって思ってたのは本当で、でもそれは亡くなった一真さんの身内の十真君や家族の人も失礼なことをしてもいい訳じゃなくて。ああもう何を言いたいのか自分でも解らない。ごめんね」
「エレナさん……」
十真君は少し困ったように私を見ていた。
ただ、私が思っていたよりもそれはずっと軽いもので、身内に失礼な言動を取った人に向けての嫌悪感とは思えなかった。何だか別のことに困っているようだった。
「そんなに深刻に考えなくてもいいと思うけどな。映画見て、いい感じのキャラがいて、撮影場所が普通に行ける程度に近かったから見に来たくらいのことだよね」
「そう言われればそうとも言えるんだけど……」
十真君の言葉とは何となくニュアンスが違うような気がしたけれど、うまく説明できる気がしなかった。
