「兄ちゃん、このカキザキショウタってキャラの役だったんだな。主役のセンドウレンは名前忘れたけど確か兄ちゃんの友達だったから見たことある。イワイリカっていうショウタの彼女役は本当に兄ちゃんの彼女で、中山紀花っていうんだ」
「スマホで見たから字が小さくてスタッフロール、あんまり確認してなかった。お姉ちゃんの名前もあるかな」
「鈴峰アニカさんだっけ……あ、出た」
役名が付いていないキャストとスタッフの欄に『Anica Suzumine』と書かれている。
「お姉さん映画にも出てるんだ。何やってた人?」
「文化祭のシーンでたこ焼き焼いてた」
「へえ、見てみよう」
画面が早戻しされ、文化祭のシーンになった。
主役の男の子、レンが友達のショウタと歩いている途中に、ヒロインのユウミと逢う。屋台を見て回る途中で、友達にたこ焼きを頼まれているという。
それでそのたこ焼きの屋台でお姉ちゃんが演じている女子生徒が、ショウタとユウミにそれぞれたこ焼きを焼いて渡す。届けるのに立ち去ろうとするユウミに一個「味見していけよ」とレンがショウタのたこ焼きの皿から勝手に取って食べさせるシーンだ。
口の前に出されたたこ焼きをユウミが恥ずかしそうに食べて、「ありがとうね。それおいしいよ」と言って立ち去っていくところで画面を止めた。
「奥の眼鏡の金髪っぽい子がお姉さん?」
「そう」
「ちょっと似てる。二人共染めてるの?」
「ううん、お母さん北マケドニアの人だから地毛」
「帰国子女?」
「元々お母さんも子供の頃から日本にいたから。私やお姉ちゃんは外国に住んだことないよ」
そんなことを話しながら、十真君がやっとアイスのことを思い出したのか、慌ててカップを開けて抹茶アイスを食べ始める。少し溶けていたようだけど、問題なく食べているようだ。
「この映画、ストーリーはめちゃくちゃ少女漫画みたいな感じだけど、何でこの話の合間にしょっちゅうドローンで飛んでるんだろう。すごい謎」
「何だかこの時の部長だった先輩がお金持ちで、私物のドローンを使ってたんだって。今はお姉ちゃん、その人の経営するドローン撮影の会社で働いてるんだ。この映画の冊子が家にあって、ヒロインのユウミ役の人が写ってるサンプルとして取りに来てて、そのタイミングにあの写真も出てきたの」
「冊子ってパンフレットみたいなやつ?」
「うん、何冊か印刷したのが引き出しに入ってた。多分何か資料とかで見せるために作ったんだと思う」
あの冊子も持ってきていれば、十真君に見せて確認することができたのだ。QRコードも印刷されていたから、調べなくても動画サイトに飛ぶこともできた。手間をかけさせたのが申し訳ない気分だった。
十真君がリモコンのボタンを押すと、今度は最後まで画面が流れていった。
「でも、変な気分だよな……学校、全然変わってないからさ。ついさっき現実で起こったまでは思わないけど、今年の文化祭で映画部が作ってた映画だって言われてもそうかもって思う」
「……そうかも」
つい同じ言葉を繰り返してしまう。
私も自分の通っている高校を舞台にこんな映画が撮られてて、それに知り合いが何人も出てたらそんな気持ちになるかもしれない。
「うちの文化祭、六月なんだ。文化祭のシーンの後に海に行ったりしてるだろ? スケジュールもこうだなっていうのも自然に感じられてさ」
「そうなんだ。うちの学校は九月だよ。だからもしうちの学校で撮ったら海のシーンの方が先になるのかな。そういうの何だか面白いね」
「うん」
十真君はとっくに空になったアイスではなく、麦茶を半分くらい一気に飲んだ。
何か思いついたらしく、楽しげに笑う。
「あのさ、あの映画で写ってた現場、見てみたくない?」
「えっ?」
今まで考えてもみなかったことだった。
「見てみたいけど……私部外者だよ。勝手に入っていいのかな。こっそり学校の校門あたりを見て帰れたら充分かなと思ってた」
「俺が案内するよ。わざわざ聖地巡礼しに来てくれたんだし、見て帰った方が楽しいだろうし」
「怒られたりしない?」
「一応俺が制服着ていくし、何かあったら俺が先生とかに説明するから大丈夫。とりあえず上履き持ってきてないだろうから家のスリッパとか持ってくか。ちょっと待ってて。着替えてくる」
残りの麦茶を飲みきって、十真君が立ち上がる。
私に軽く指だけで手を振ってみせ、そのまま出ていった。
「スマホで見たから字が小さくてスタッフロール、あんまり確認してなかった。お姉ちゃんの名前もあるかな」
「鈴峰アニカさんだっけ……あ、出た」
役名が付いていないキャストとスタッフの欄に『Anica Suzumine』と書かれている。
「お姉さん映画にも出てるんだ。何やってた人?」
「文化祭のシーンでたこ焼き焼いてた」
「へえ、見てみよう」
画面が早戻しされ、文化祭のシーンになった。
主役の男の子、レンが友達のショウタと歩いている途中に、ヒロインのユウミと逢う。屋台を見て回る途中で、友達にたこ焼きを頼まれているという。
それでそのたこ焼きの屋台でお姉ちゃんが演じている女子生徒が、ショウタとユウミにそれぞれたこ焼きを焼いて渡す。届けるのに立ち去ろうとするユウミに一個「味見していけよ」とレンがショウタのたこ焼きの皿から勝手に取って食べさせるシーンだ。
口の前に出されたたこ焼きをユウミが恥ずかしそうに食べて、「ありがとうね。それおいしいよ」と言って立ち去っていくところで画面を止めた。
「奥の眼鏡の金髪っぽい子がお姉さん?」
「そう」
「ちょっと似てる。二人共染めてるの?」
「ううん、お母さん北マケドニアの人だから地毛」
「帰国子女?」
「元々お母さんも子供の頃から日本にいたから。私やお姉ちゃんは外国に住んだことないよ」
そんなことを話しながら、十真君がやっとアイスのことを思い出したのか、慌ててカップを開けて抹茶アイスを食べ始める。少し溶けていたようだけど、問題なく食べているようだ。
「この映画、ストーリーはめちゃくちゃ少女漫画みたいな感じだけど、何でこの話の合間にしょっちゅうドローンで飛んでるんだろう。すごい謎」
「何だかこの時の部長だった先輩がお金持ちで、私物のドローンを使ってたんだって。今はお姉ちゃん、その人の経営するドローン撮影の会社で働いてるんだ。この映画の冊子が家にあって、ヒロインのユウミ役の人が写ってるサンプルとして取りに来てて、そのタイミングにあの写真も出てきたの」
「冊子ってパンフレットみたいなやつ?」
「うん、何冊か印刷したのが引き出しに入ってた。多分何か資料とかで見せるために作ったんだと思う」
あの冊子も持ってきていれば、十真君に見せて確認することができたのだ。QRコードも印刷されていたから、調べなくても動画サイトに飛ぶこともできた。手間をかけさせたのが申し訳ない気分だった。
十真君がリモコンのボタンを押すと、今度は最後まで画面が流れていった。
「でも、変な気分だよな……学校、全然変わってないからさ。ついさっき現実で起こったまでは思わないけど、今年の文化祭で映画部が作ってた映画だって言われてもそうかもって思う」
「……そうかも」
つい同じ言葉を繰り返してしまう。
私も自分の通っている高校を舞台にこんな映画が撮られてて、それに知り合いが何人も出てたらそんな気持ちになるかもしれない。
「うちの文化祭、六月なんだ。文化祭のシーンの後に海に行ったりしてるだろ? スケジュールもこうだなっていうのも自然に感じられてさ」
「そうなんだ。うちの学校は九月だよ。だからもしうちの学校で撮ったら海のシーンの方が先になるのかな。そういうの何だか面白いね」
「うん」
十真君はとっくに空になったアイスではなく、麦茶を半分くらい一気に飲んだ。
何か思いついたらしく、楽しげに笑う。
「あのさ、あの映画で写ってた現場、見てみたくない?」
「えっ?」
今まで考えてもみなかったことだった。
「見てみたいけど……私部外者だよ。勝手に入っていいのかな。こっそり学校の校門あたりを見て帰れたら充分かなと思ってた」
「俺が案内するよ。わざわざ聖地巡礼しに来てくれたんだし、見て帰った方が楽しいだろうし」
「怒られたりしない?」
「一応俺が制服着ていくし、何かあったら俺が先生とかに説明するから大丈夫。とりあえず上履き持ってきてないだろうから家のスリッパとか持ってくか。ちょっと待ってて。着替えてくる」
残りの麦茶を飲みきって、十真君が立ち上がる。
私に軽く指だけで手を振ってみせ、そのまま出ていった。
