凪いでいる海は雲ひとつない青空を映して鮮やかだった。しかも水面に太陽が射して、きらきらと眩しい。『きらきらの空』でも海のシーンは雲のない快晴だったから、少しだけあの日に入り込んだような気持ちになった。
映画の中では一緒に来ていた仲間とはしゃいで遊ぶばかりで、波が輝いていることも、凪いでいる海面も意識していないみたいだった。でも、側にいるのは十真君一人で、他にいる人達は私達よりずっと遠くに数人いるだけだから、あの時の雰囲気とは全く違う。
ただ青で埋め尽くされた空だけが同じだった。
しばらくの間、空と海の青を凝視していたのだろう。
「……大丈夫?」
少し心配そうな十真君の声で我に返った。
「ごめんね。空を見てた。今日は快晴で、映画と同じだなって……それに海も綺麗な青だったから、あの日に来たみたいだなって」
「うん、そうだね……そうかもしれない。雲もないしあの日みたいだ」
一真さん、大江さんがいた『きらきらの空』の中。海のシーンにいなかったお姉ちゃんや鴨志田さんも、きっと映っていないだけでそこにいた。あそこには、みんなが楽しく映画を撮った楽しい時間があった。ただ見に来ただけでも、彼らの楽しい時間を追体験しているような気分になれた。
「見に来てよかったな……」
じんわりとあたたかい気持ちがこみ上げた。十真君に何か言おうと顔を横に向けた瞬間、いきなり強く手を引かれた。
「波っ!」
ぼんやりと思いを馳せている間に少し高めの波が来ていたらしい。数十センチほど後ろへ引いてくれたけれど、裾は濡れてしまった。ただ、あのまま立っていたらもっと濡れただろう。
二度も十真君に助けてもらってしまった。
「ごめんね。潮が満ちてきてるのかな」
「今満ちてきてるみたいだけど、それよりエレナさん疲れてるんだよ。家から虎塚から金砂に来て、その後で海まで来てるんだから。俺よりずっと移動時間長いし、疲れてて当然だよ。向こうで座って休もう?」
移動距離の差について考えに入れていなかった。『きらきらの空』の映画の舞台を見に行こうという思いがあったから疲れに無自覚だっただけだ。
「ありがとう。本当にごめんね」
「謝らなくていいから。浜でつまずいた時に俺が気付いててもよかったんだ」
十真君は私の手を引いたまま、靴を置いた場所へゆっくりと進む。少しふらついていることに気付いた。本当に疲れていたらしい。十真君は静かに座れる位置まで連れてきてくれた。
「ありがとう」
身をかがめ、置いてあった私の靴の横に静かに腰を下ろす。私がちゃんと姿勢を整えた後、十真君も隣に座った。彼の方は全然危なげない動きだった。
「何か甘いものとか食べた方がいいよ。塩タブレットも少しはカロリーあると思うから、なかったらそれ食べて」
「パン買っておいたの食べる。二個あるから十真君も一個あげるね」
「いいの?」
「うん。駅前に戻ればコンビニあるの解ったし、食べて」
鞄からパン屋の袋を取り出し、二種類のパンをを見せる。
「レーズンバンズとアーモンドペストリー、好きな方取っていいよ。両方共私の好みで買ったからどっちでもいいの」
「え、いいの? ありがとう。じゃレーズンの」
十真君があの微笑ましい、猫みたいに眼を細めた表情になった。
逢ったばかりの時間にはこの笑顔が可愛いな、こういう感じに笑うのかと思っていたけれど、ここまでの数時間でいろいろ違うタイプの笑顔を見たような気がする。
パンに口をつける前にペットボトルのお茶も出して蓋を開けておいた。
アーモンドペストリーはかじると口の中でアーモンドの香りと甘さが沁みる。
「……いつもの倍くらいおいしい気がするんだけど何でだろう」
「それ糖分足りてないんだよ」
それだけじゃないような気がするけれど、うまく説明できなかった。
二人でそれぞれにパンをかじりながら座っていると、少しだけ楽になった。でも疲れが取れた訳ではなくて単に血糖値が上がったからなのだろう。
「エレナさん、食べてもしばらく座ってた方がいいよ。あとパン食べた後に塩タブレットも一個食べといて」
「うん」
十真君が個包装の塩タブレットをひとつ渡してくれる。
もうとっくにパンを食べ終わった彼の横で、まだ半分以上残っているアーモンドペストリーを少しずつかじっていた。
ほんの少し風が冷えてきたせいか、頭がはっきりとしてくる。ぬるい紅茶を口に流し込むと、その渋みでしゃんとしてきた。
映画の中では一緒に来ていた仲間とはしゃいで遊ぶばかりで、波が輝いていることも、凪いでいる海面も意識していないみたいだった。でも、側にいるのは十真君一人で、他にいる人達は私達よりずっと遠くに数人いるだけだから、あの時の雰囲気とは全く違う。
ただ青で埋め尽くされた空だけが同じだった。
しばらくの間、空と海の青を凝視していたのだろう。
「……大丈夫?」
少し心配そうな十真君の声で我に返った。
「ごめんね。空を見てた。今日は快晴で、映画と同じだなって……それに海も綺麗な青だったから、あの日に来たみたいだなって」
「うん、そうだね……そうかもしれない。雲もないしあの日みたいだ」
一真さん、大江さんがいた『きらきらの空』の中。海のシーンにいなかったお姉ちゃんや鴨志田さんも、きっと映っていないだけでそこにいた。あそこには、みんなが楽しく映画を撮った楽しい時間があった。ただ見に来ただけでも、彼らの楽しい時間を追体験しているような気分になれた。
「見に来てよかったな……」
じんわりとあたたかい気持ちがこみ上げた。十真君に何か言おうと顔を横に向けた瞬間、いきなり強く手を引かれた。
「波っ!」
ぼんやりと思いを馳せている間に少し高めの波が来ていたらしい。数十センチほど後ろへ引いてくれたけれど、裾は濡れてしまった。ただ、あのまま立っていたらもっと濡れただろう。
二度も十真君に助けてもらってしまった。
「ごめんね。潮が満ちてきてるのかな」
「今満ちてきてるみたいだけど、それよりエレナさん疲れてるんだよ。家から虎塚から金砂に来て、その後で海まで来てるんだから。俺よりずっと移動時間長いし、疲れてて当然だよ。向こうで座って休もう?」
移動距離の差について考えに入れていなかった。『きらきらの空』の映画の舞台を見に行こうという思いがあったから疲れに無自覚だっただけだ。
「ありがとう。本当にごめんね」
「謝らなくていいから。浜でつまずいた時に俺が気付いててもよかったんだ」
十真君は私の手を引いたまま、靴を置いた場所へゆっくりと進む。少しふらついていることに気付いた。本当に疲れていたらしい。十真君は静かに座れる位置まで連れてきてくれた。
「ありがとう」
身をかがめ、置いてあった私の靴の横に静かに腰を下ろす。私がちゃんと姿勢を整えた後、十真君も隣に座った。彼の方は全然危なげない動きだった。
「何か甘いものとか食べた方がいいよ。塩タブレットも少しはカロリーあると思うから、なかったらそれ食べて」
「パン買っておいたの食べる。二個あるから十真君も一個あげるね」
「いいの?」
「うん。駅前に戻ればコンビニあるの解ったし、食べて」
鞄からパン屋の袋を取り出し、二種類のパンをを見せる。
「レーズンバンズとアーモンドペストリー、好きな方取っていいよ。両方共私の好みで買ったからどっちでもいいの」
「え、いいの? ありがとう。じゃレーズンの」
十真君があの微笑ましい、猫みたいに眼を細めた表情になった。
逢ったばかりの時間にはこの笑顔が可愛いな、こういう感じに笑うのかと思っていたけれど、ここまでの数時間でいろいろ違うタイプの笑顔を見たような気がする。
パンに口をつける前にペットボトルのお茶も出して蓋を開けておいた。
アーモンドペストリーはかじると口の中でアーモンドの香りと甘さが沁みる。
「……いつもの倍くらいおいしい気がするんだけど何でだろう」
「それ糖分足りてないんだよ」
それだけじゃないような気がするけれど、うまく説明できなかった。
二人でそれぞれにパンをかじりながら座っていると、少しだけ楽になった。でも疲れが取れた訳ではなくて単に血糖値が上がったからなのだろう。
「エレナさん、食べてもしばらく座ってた方がいいよ。あとパン食べた後に塩タブレットも一個食べといて」
「うん」
十真君が個包装の塩タブレットをひとつ渡してくれる。
もうとっくにパンを食べ終わった彼の横で、まだ半分以上残っているアーモンドペストリーを少しずつかじっていた。
ほんの少し風が冷えてきたせいか、頭がはっきりとしてくる。ぬるい紅茶を口に流し込むと、その渋みでしゃんとしてきた。
