二人で数分間窓から外を見ていた。
虎塚駅を出た後、窓から見る景色が少しずつ変わっていく。
それなりに大きなビルも建っていた千波駅周辺と較べてはいけないだろうけれど、虎塚駅周辺でもある程度は建っていたビル群が少しずつ低くなっていった。
変わらないのは雲ひとつなくすっきりとした色合いの青空だけだ。
「何か不思議な気分」
「このへんだとまだ虎塚からそんなに離れてないけど、そんなに不思議?」
「買い物とかだとこっちには来ないから、自分で移動する時はほとんど千波駅まで一駅だよ。家族で買い物に行く時には車だからわざわざこっちに電車で来たりとかなくて」
うちの近所はスーパーなんかも多い方だ。買い物にはあまり不自由しない。
ただパパもママも仕事があるから、こまめに買い物に出かけることもできない。食材や生活必需品を買うのもどうしても週に一、二度、まとめ買いで済ませることになる。今は一人暮らしのお姉ちゃんも車で移動しているから買い物は電車前提にはならないだろう。
「それは解る。うちもだ」
虎塚のあたりならまだ徒歩や自転車で買い物にも行ける範囲だけれど、十真君の住む金砂市のあたりなら、車前提で買い物を済ませているはずだ。
「だとすると、エレナさんにとっても電車でこっちに向かうのはあんまりないんだ」
「うん、自分で買い物や用事で出かける時には全部千波で済んじゃうから、基本こっちに来ないの。遠足で行った博物館とかはバスだったし」
学校の行事で出かけるような場所はあまり駅の側にないのだ。だからこそ、家族でも友達とでも、こちら側へ電車で移動していく機会は基本ない。
「あ、違う。『あんまりない』じゃなくて、初めてかも」
「じゃ、今日って行ったことなかった全然逆方向の場所ふたつに行くことになるんだ? それってすごいな」
「……うん、朝には予想もしてなかったっていうのがもっとすごいよね」
たった十五分くらいの、しかも特に面白かった訳でもない自主制作映画と、出演していた一真さんが私を金砂へ、そして初めて逢った十真君のことも一緒に天香海岸へと連れていくんだと思うと、胸が詰まりそうだ。
「天香海岸って結構遠いけど、行ったことある?」
「実はないんだ。兄ちゃんが映画に出た時に海にロケしに行ったっていう話を聞いて、俺も行きたいってだだこねたら親がその近くの海水浴場に連れてってくれた。じいちゃんとばあちゃんは行かなかったけど、兄ちゃんは一緒に行ったよ」
「いいな、そういうの。私もその頃に知ってたらおねだりしたかも」
小学生の十真君にとってはきっとお兄さんだけ海に行ったというのが羨ましかったのだろう。ただ、金砂市から天香市までは距離があるから、運転したのがお父さんかお母さんか解らないけど大変だったんじゃないかと思った。
お姉ちゃんもその頃に何か『きらきらの空』の痕跡を残してくれればよかったのに。
そんなことを考えている横で十真君が笑う。
「でも、ロケしたのは海水浴場があるエリアじゃなくて、近くの別の海岸だって後で聞いたよ。俺が泳げなくてつまらないだろうからって海水浴場にしたらしい。その時には映画の話なんて適当に聞いてたから、泳げて嬉しかっただけだった」
「私もその頃に聞いてたらそんな感じだったかも」
陽灼けで肌が赤くなってしまう方だから、海で泳ぐなら普段以上に陽灼け止めを念入りに塗る必要はあるけれど、家族みんなで海で泳いで遊べるのが嬉しくて、観てもいない映画の話なんてすぐに忘れてしまっただろう。
それを残念に思えるのは成長した今だからだ。
私達は何となく黙って、もう一度窓に視線を向けた。
大きな新しい駅をてくつか通り過ぎ、小さな駅ばかりになった頃までに周囲の建物の高さはどんどん低くなり、数が減っていく。この調子で建物が少なくなっていくと、確かにお姉ちゃんの言っていた通り、店がなくても全然おかしくない感じになっていった。
虎塚駅を出た後、窓から見る景色が少しずつ変わっていく。
それなりに大きなビルも建っていた千波駅周辺と較べてはいけないだろうけれど、虎塚駅周辺でもある程度は建っていたビル群が少しずつ低くなっていった。
変わらないのは雲ひとつなくすっきりとした色合いの青空だけだ。
「何か不思議な気分」
「このへんだとまだ虎塚からそんなに離れてないけど、そんなに不思議?」
「買い物とかだとこっちには来ないから、自分で移動する時はほとんど千波駅まで一駅だよ。家族で買い物に行く時には車だからわざわざこっちに電車で来たりとかなくて」
うちの近所はスーパーなんかも多い方だ。買い物にはあまり不自由しない。
ただパパもママも仕事があるから、こまめに買い物に出かけることもできない。食材や生活必需品を買うのもどうしても週に一、二度、まとめ買いで済ませることになる。今は一人暮らしのお姉ちゃんも車で移動しているから買い物は電車前提にはならないだろう。
「それは解る。うちもだ」
虎塚のあたりならまだ徒歩や自転車で買い物にも行ける範囲だけれど、十真君の住む金砂市のあたりなら、車前提で買い物を済ませているはずだ。
「だとすると、エレナさんにとっても電車でこっちに向かうのはあんまりないんだ」
「うん、自分で買い物や用事で出かける時には全部千波で済んじゃうから、基本こっちに来ないの。遠足で行った博物館とかはバスだったし」
学校の行事で出かけるような場所はあまり駅の側にないのだ。だからこそ、家族でも友達とでも、こちら側へ電車で移動していく機会は基本ない。
「あ、違う。『あんまりない』じゃなくて、初めてかも」
「じゃ、今日って行ったことなかった全然逆方向の場所ふたつに行くことになるんだ? それってすごいな」
「……うん、朝には予想もしてなかったっていうのがもっとすごいよね」
たった十五分くらいの、しかも特に面白かった訳でもない自主制作映画と、出演していた一真さんが私を金砂へ、そして初めて逢った十真君のことも一緒に天香海岸へと連れていくんだと思うと、胸が詰まりそうだ。
「天香海岸って結構遠いけど、行ったことある?」
「実はないんだ。兄ちゃんが映画に出た時に海にロケしに行ったっていう話を聞いて、俺も行きたいってだだこねたら親がその近くの海水浴場に連れてってくれた。じいちゃんとばあちゃんは行かなかったけど、兄ちゃんは一緒に行ったよ」
「いいな、そういうの。私もその頃に知ってたらおねだりしたかも」
小学生の十真君にとってはきっとお兄さんだけ海に行ったというのが羨ましかったのだろう。ただ、金砂市から天香市までは距離があるから、運転したのがお父さんかお母さんか解らないけど大変だったんじゃないかと思った。
お姉ちゃんもその頃に何か『きらきらの空』の痕跡を残してくれればよかったのに。
そんなことを考えている横で十真君が笑う。
「でも、ロケしたのは海水浴場があるエリアじゃなくて、近くの別の海岸だって後で聞いたよ。俺が泳げなくてつまらないだろうからって海水浴場にしたらしい。その時には映画の話なんて適当に聞いてたから、泳げて嬉しかっただけだった」
「私もその頃に聞いてたらそんな感じだったかも」
陽灼けで肌が赤くなってしまう方だから、海で泳ぐなら普段以上に陽灼け止めを念入りに塗る必要はあるけれど、家族みんなで海で泳いで遊べるのが嬉しくて、観てもいない映画の話なんてすぐに忘れてしまっただろう。
それを残念に思えるのは成長した今だからだ。
私達は何となく黙って、もう一度窓に視線を向けた。
大きな新しい駅をてくつか通り過ぎ、小さな駅ばかりになった頃までに周囲の建物の高さはどんどん低くなり、数が減っていく。この調子で建物が少なくなっていくと、確かにお姉ちゃんの言っていた通り、店がなくても全然おかしくない感じになっていった。
