千波駅前まで戻りながら、私達はこれからの相談をした。
「そういえばお姉ちゃんが、天香海岸にはコンビニとか座ったりできる食べ物屋さんとか何もないって言ってたけど、飲み物とかは駅ナカで買っておいた方がいいかな」
「買わなきゃいけないものとかがあるなら絶対その方がいいよ。何もない場所って割と本当に何もないから。金砂も買い物できるエリアを外れると本当に何も買えないから俺は馴れてるけど、土地勘がなくて何もないとなると結構しんどいと思うよ」
もちろん鞄には最低限のものは用意してきたけれど、到着した先で何も手に入らない可能性は考えていなかった。
金砂に来る時にも山を抜けてきていたし、田舎だとは思ったけれど、観光地のせいか駅前ではそれなりに買い物もできるしコンビニや郵便局もあった。それに最初は学校を見ただけで帰るつもりだったから少し油断していたのだ。
「うん、買っておこう。あと身支度するからトイレに行っておくね」
駅まで行ったらウェットティッシュで服の下で少し汗ばんでいるところを拭いて、デオドラントスプレーや陽灼け止めスプレーを使ったりしたい。
駅で切符を買って、天香行きの電車がいつ来るか確かめる。大体二十分ちょっとくらいで発車するらしい。全然余裕がないというほどではないけれど、潤沢に時間がある訳でもない。同じ階にある店を確かめた。
「十真君、何買いに行く?」
「俺は飲み物と何か食べ物と塩タブレット。そこの薬局か中のコンビニで全部揃うよ」
「そっか。私はパン屋に行くね。その後中のコンビニで残りを買ってトイレに行く」
「了解。買い終わったらここで待ち合わせしよう」
もっとお腹が空いていたり、買い物のために出かけてきたのならもう少しお洒落な店に行ったり、いろいろ探す楽しさがあるけれど、今日はそういう訳にもいかない。
私達はそれぞれ薬局とパン屋に向かった。本当はコンビニで買う予定に回したものは全部薬局でも買えるけれど、パン屋に行く間十真君を待たせておくのは気が引けてやめたのだ。
パン屋ではレーズンバンズとアーモンドペストリーを買った。私は疲れると何かお腹に入れないと気持ち悪くなる方なので、あんまり崩れたり潰れたりしないタイプの甘めのパンをよく買う。
割と急いで戻ったつもりだったのに、出てきた時にはちょうど十真君が薬局から出てくるところだった。すぐに私を見つけ、笑顔で手を振ると駆け寄ってくれる。
その明るい表情を見ていると何だか胸がときめいた。
十真君の笑顔は映画の一真さんの笑顔と較べてストレートに感情が伝わってくる。全然違うんだなと腑に落ちた。
「急がなくてもよかったのに」
「待たせると悪いかなと思って」
「うん、俺もそう思ってた」
お互いに照れて笑った。
こんな時に交わすのにちょうどいい言葉がありそうな気がするけれど、今日逢ったばかりの男の子と一緒に出かけるのも、男の子と二人だけで出かけるのも初めてだから、全く思いつかない。
「じゃ、残りの買い物は中のコンビニか。あっ、塩タブレット薬局で買ったから買わなくていいよ。いっぱいあるし俺の食べて」
「ありがとう。そうするね」
私達は改札をくぐった。コンビニに入ると手早く買うものを籠に入れる。体を拭くためのウェットティッシュをもうひとつ。ミネラルウォーター。まだ飲んだことのないストレートティー。
十真君もそれほど買う予定のものが多くなかったのかレジに向かおうとしていたけれど、ちょっと会釈して「先にごめんね」と付け加えて先にレジで精算させてもらうことにした。
「じゃ、終わったらコンビニの前にいるね」
「了解」
トイレに行って待たせる時間を最小限にしたかった。
慌ただしくトイレに向かって、念のために用を足し、その後で本題に取りかかる。半袖カーディガンを脱いで一度フックにかけ、着ているティアードシャツを開けて少し汗ばんでいるところを一通り拭いた。
デオドラントスプレー、陽灼け止めスプレーを順番に使って、もう一度服を着直した。その後ふと思い出し、鞄の中を覗く。
お姉ちゃんから渡されたお小遣いを確認していなかったのだ。雑に畳んだお札を取り出して広げると津田梅子の顔が見える。五千円札だ。
(わ、五千円もくれてた!)
驚いてしばらく途方に暮れていたけれど、時間がないのを思い出す。お札は財布にしまってから個室を出る。
残っている作業はあとひとつ。洗面台の前に行き、髪は陽灼け止めスプレーをかけてまとめるだけだ。やや急いで髪をまとめて早足で向かう。
なるべく急いだつもりだったけど、もちろん十真君はとっくの昔に買い物を済ませてコンビニの前で待っていてくれた。
「ごめんね。もっと急ぐつもりだったんだけど」
「まだ時間あるし大丈夫だよ。あと五分くらいあるからそんなに無理しなくても。でも、そろそろ行こうか」
笑顔で天香行きの電車が到着するホームへと足を向けた。
(もしかしてトイレで時間かかったと思われてる!? どうしよう恥ずかしい)
そっちじゃないと付け加えたかったけれど、デオドラントスプレー、陽灼け止めスプレーのかけ直しもわざわざ言うのは恥ずかしい。汗臭かったら嫌だと説明するのも恥ずかしい。
何だかもう何もかもが恥ずかしい気がしてきた。
いい感じに伝えられそうな言い訳が思いつかず、そのまま十真君の後ろをついて階段を降りていく。
「そういえばお姉ちゃんが、天香海岸にはコンビニとか座ったりできる食べ物屋さんとか何もないって言ってたけど、飲み物とかは駅ナカで買っておいた方がいいかな」
「買わなきゃいけないものとかがあるなら絶対その方がいいよ。何もない場所って割と本当に何もないから。金砂も買い物できるエリアを外れると本当に何も買えないから俺は馴れてるけど、土地勘がなくて何もないとなると結構しんどいと思うよ」
もちろん鞄には最低限のものは用意してきたけれど、到着した先で何も手に入らない可能性は考えていなかった。
金砂に来る時にも山を抜けてきていたし、田舎だとは思ったけれど、観光地のせいか駅前ではそれなりに買い物もできるしコンビニや郵便局もあった。それに最初は学校を見ただけで帰るつもりだったから少し油断していたのだ。
「うん、買っておこう。あと身支度するからトイレに行っておくね」
駅まで行ったらウェットティッシュで服の下で少し汗ばんでいるところを拭いて、デオドラントスプレーや陽灼け止めスプレーを使ったりしたい。
駅で切符を買って、天香行きの電車がいつ来るか確かめる。大体二十分ちょっとくらいで発車するらしい。全然余裕がないというほどではないけれど、潤沢に時間がある訳でもない。同じ階にある店を確かめた。
「十真君、何買いに行く?」
「俺は飲み物と何か食べ物と塩タブレット。そこの薬局か中のコンビニで全部揃うよ」
「そっか。私はパン屋に行くね。その後中のコンビニで残りを買ってトイレに行く」
「了解。買い終わったらここで待ち合わせしよう」
もっとお腹が空いていたり、買い物のために出かけてきたのならもう少しお洒落な店に行ったり、いろいろ探す楽しさがあるけれど、今日はそういう訳にもいかない。
私達はそれぞれ薬局とパン屋に向かった。本当はコンビニで買う予定に回したものは全部薬局でも買えるけれど、パン屋に行く間十真君を待たせておくのは気が引けてやめたのだ。
パン屋ではレーズンバンズとアーモンドペストリーを買った。私は疲れると何かお腹に入れないと気持ち悪くなる方なので、あんまり崩れたり潰れたりしないタイプの甘めのパンをよく買う。
割と急いで戻ったつもりだったのに、出てきた時にはちょうど十真君が薬局から出てくるところだった。すぐに私を見つけ、笑顔で手を振ると駆け寄ってくれる。
その明るい表情を見ていると何だか胸がときめいた。
十真君の笑顔は映画の一真さんの笑顔と較べてストレートに感情が伝わってくる。全然違うんだなと腑に落ちた。
「急がなくてもよかったのに」
「待たせると悪いかなと思って」
「うん、俺もそう思ってた」
お互いに照れて笑った。
こんな時に交わすのにちょうどいい言葉がありそうな気がするけれど、今日逢ったばかりの男の子と一緒に出かけるのも、男の子と二人だけで出かけるのも初めてだから、全く思いつかない。
「じゃ、残りの買い物は中のコンビニか。あっ、塩タブレット薬局で買ったから買わなくていいよ。いっぱいあるし俺の食べて」
「ありがとう。そうするね」
私達は改札をくぐった。コンビニに入ると手早く買うものを籠に入れる。体を拭くためのウェットティッシュをもうひとつ。ミネラルウォーター。まだ飲んだことのないストレートティー。
十真君もそれほど買う予定のものが多くなかったのかレジに向かおうとしていたけれど、ちょっと会釈して「先にごめんね」と付け加えて先にレジで精算させてもらうことにした。
「じゃ、終わったらコンビニの前にいるね」
「了解」
トイレに行って待たせる時間を最小限にしたかった。
慌ただしくトイレに向かって、念のために用を足し、その後で本題に取りかかる。半袖カーディガンを脱いで一度フックにかけ、着ているティアードシャツを開けて少し汗ばんでいるところを一通り拭いた。
デオドラントスプレー、陽灼け止めスプレーを順番に使って、もう一度服を着直した。その後ふと思い出し、鞄の中を覗く。
お姉ちゃんから渡されたお小遣いを確認していなかったのだ。雑に畳んだお札を取り出して広げると津田梅子の顔が見える。五千円札だ。
(わ、五千円もくれてた!)
驚いてしばらく途方に暮れていたけれど、時間がないのを思い出す。お札は財布にしまってから個室を出る。
残っている作業はあとひとつ。洗面台の前に行き、髪は陽灼け止めスプレーをかけてまとめるだけだ。やや急いで髪をまとめて早足で向かう。
なるべく急いだつもりだったけど、もちろん十真君はとっくの昔に買い物を済ませてコンビニの前で待っていてくれた。
「ごめんね。もっと急ぐつもりだったんだけど」
「まだ時間あるし大丈夫だよ。あと五分くらいあるからそんなに無理しなくても。でも、そろそろ行こうか」
笑顔で天香行きの電車が到着するホームへと足を向けた。
(もしかしてトイレで時間かかったと思われてる!? どうしよう恥ずかしい)
そっちじゃないと付け加えたかったけれど、デオドラントスプレー、陽灼け止めスプレーのかけ直しもわざわざ言うのは恥ずかしい。汗臭かったら嫌だと説明するのも恥ずかしい。
何だかもう何もかもが恥ずかしい気がしてきた。
いい感じに伝えられそうな言い訳が思いつかず、そのまま十真君の後ろをついて階段を降りていく。
