(考えてから言えばよかった!)
顔の上げ方のせいでちょうど眼が合ってしまった。
端整な瞼のライン、涼しげな黒い眼。さらさらの黒髪。わずかに通りに風が流れ込んでいるせいか、髪が少しだけ揺れている。何だかすごく幸せな気分になってしまってうまく眼をそらすことができず、どうしていいのか解らなかった。
でも、睨みつけているように見えてしまったらどうしよう。そんな心配でいたたまれなくなってくる。でもいい感じに眼をそらす方法が思いつかない。
困ったように十真君が私を見下ろす。
「もしかして怒ってる?」
「怒ってないよ! そうじゃなくて、えーと……」
あんなに凝視していたらそう思われても仕方がなかった。
今の状態だと狼狽していてちゃんと説明できる気がしない。
とりあえず呼吸を整えて一度ちゃんと落ち着こう。
軽く眼を閉じ、深呼吸する。
一回、二回、三回。
ああ、恥ずかしい。もう何をしてもみっともないだけなので、いい感じの言葉を言おうなんて思わない方がいいかもしれない。
もう一度、ぎゅっと瞼を閉じた。
「何ていうか──その、うまく言えないけど十真君、ゲームセンターのあった場所を見て……気が済んだ……?」
私の言葉を聞いて、十真君が一瞬眼を見開く。
その後で困ったように笑った。
「済んでない。ゲーセンまで辿り着くのに、いろいろ考えたりとか、これはどうだろうって思ったりとかがすごく楽しくて、見つけた時にすごく達成感があってさ。こんなに楽しいんだって自分でも驚いた」
そこまで口にして、うまく続きが浮かばなかったのだろう。少しの間眼を伏せて考えてから、もう一度私のことを見た。
「ほんとに、全然気が済まなかった。ここまで辿り着いてすごく楽しかったから余計に、このまま帰りたくなくなったんだ。エレナさんが俺に気を遣ってもう帰った方がいいって言ってくれたのに、海も見に行きたいって思ってる」
十真君の言葉は心の底から出たものなんだろう。彼の眼はきらきら輝いて、とても嬉しそうだった。
「俺、海に行っちゃ駄目かな。もしエレナさんが嫌だっていうなら、俺一人で行ってもいいし……」
「私、この後、一人で行こうと思ってた」
「えーっ」
「あんなにつらそうな人を無理やり連れて行けないけど、私は……行きたかったから。私十真君が帰ったら一人で行くつもりだったの」
「俺そんなに駄目そうだった?」
「鴨志田さん達の話を聞かせて、私が罪悪感で落ち込むくらいにはしんどそうだったよ」
「ごめん。本当にごめん。あの時には知らない話聞いてめちゃくちゃショックだったから、表に出てたかもしれない。すごく気を遣わせてごめん。でも、エレナさんが行きたがってるなら、もう遠慮しなくてもいいんだよな……だったら一緒に行こ? 俺行きたいし」
十真君は何だか──無邪気な人なのだ。そんな風に明るく笑顔を浮かべられたら、このまま帰った方がいいよなんて言えるはずもない。
私自身が、十真君ともっと一緒に歩きたい。見たことのない場所を二人で探して、ここだったんだって一緒に見たいと思っているのだから。
あの映画の中で一真さんの演じるカキザキショウタは、明るくてやさしそうな人だった。二人は外見だけでなくちょっと話した感じで解る程度の人柄もある程度似ているけれど、もう少し他人に対して穏やかに譲る印象があった。
主役の親友、センドウレンと話す時にも、自分の意志を押し通すところがあるレンにしょうがないなあと笑って譲ってくれるような感じだった。でも十真君はそういう感じじゃなくて、こんな風にもっと自分の意志を主張するタイプなのだ。
つい笑みがこぼれ出た。
「うん、天香海岸がどんなところかよく解らないけど、きっと自分達で見たら楽しいよ」
「俺もそう思う。今日は晴れてるし、行ってみてずぶ濡れとかもなさそうだから尚更」
笑い合った。
こんな風に心が通じ合うなんて考えてもみなかったから余計に嬉しかった。
顔の上げ方のせいでちょうど眼が合ってしまった。
端整な瞼のライン、涼しげな黒い眼。さらさらの黒髪。わずかに通りに風が流れ込んでいるせいか、髪が少しだけ揺れている。何だかすごく幸せな気分になってしまってうまく眼をそらすことができず、どうしていいのか解らなかった。
でも、睨みつけているように見えてしまったらどうしよう。そんな心配でいたたまれなくなってくる。でもいい感じに眼をそらす方法が思いつかない。
困ったように十真君が私を見下ろす。
「もしかして怒ってる?」
「怒ってないよ! そうじゃなくて、えーと……」
あんなに凝視していたらそう思われても仕方がなかった。
今の状態だと狼狽していてちゃんと説明できる気がしない。
とりあえず呼吸を整えて一度ちゃんと落ち着こう。
軽く眼を閉じ、深呼吸する。
一回、二回、三回。
ああ、恥ずかしい。もう何をしてもみっともないだけなので、いい感じの言葉を言おうなんて思わない方がいいかもしれない。
もう一度、ぎゅっと瞼を閉じた。
「何ていうか──その、うまく言えないけど十真君、ゲームセンターのあった場所を見て……気が済んだ……?」
私の言葉を聞いて、十真君が一瞬眼を見開く。
その後で困ったように笑った。
「済んでない。ゲーセンまで辿り着くのに、いろいろ考えたりとか、これはどうだろうって思ったりとかがすごく楽しくて、見つけた時にすごく達成感があってさ。こんなに楽しいんだって自分でも驚いた」
そこまで口にして、うまく続きが浮かばなかったのだろう。少しの間眼を伏せて考えてから、もう一度私のことを見た。
「ほんとに、全然気が済まなかった。ここまで辿り着いてすごく楽しかったから余計に、このまま帰りたくなくなったんだ。エレナさんが俺に気を遣ってもう帰った方がいいって言ってくれたのに、海も見に行きたいって思ってる」
十真君の言葉は心の底から出たものなんだろう。彼の眼はきらきら輝いて、とても嬉しそうだった。
「俺、海に行っちゃ駄目かな。もしエレナさんが嫌だっていうなら、俺一人で行ってもいいし……」
「私、この後、一人で行こうと思ってた」
「えーっ」
「あんなにつらそうな人を無理やり連れて行けないけど、私は……行きたかったから。私十真君が帰ったら一人で行くつもりだったの」
「俺そんなに駄目そうだった?」
「鴨志田さん達の話を聞かせて、私が罪悪感で落ち込むくらいにはしんどそうだったよ」
「ごめん。本当にごめん。あの時には知らない話聞いてめちゃくちゃショックだったから、表に出てたかもしれない。すごく気を遣わせてごめん。でも、エレナさんが行きたがってるなら、もう遠慮しなくてもいいんだよな……だったら一緒に行こ? 俺行きたいし」
十真君は何だか──無邪気な人なのだ。そんな風に明るく笑顔を浮かべられたら、このまま帰った方がいいよなんて言えるはずもない。
私自身が、十真君ともっと一緒に歩きたい。見たことのない場所を二人で探して、ここだったんだって一緒に見たいと思っているのだから。
あの映画の中で一真さんの演じるカキザキショウタは、明るくてやさしそうな人だった。二人は外見だけでなくちょっと話した感じで解る程度の人柄もある程度似ているけれど、もう少し他人に対して穏やかに譲る印象があった。
主役の親友、センドウレンと話す時にも、自分の意志を押し通すところがあるレンにしょうがないなあと笑って譲ってくれるような感じだった。でも十真君はそういう感じじゃなくて、こんな風にもっと自分の意志を主張するタイプなのだ。
つい笑みがこぼれ出た。
「うん、天香海岸がどんなところかよく解らないけど、きっと自分達で見たら楽しいよ」
「俺もそう思う。今日は晴れてるし、行ってみてずぶ濡れとかもなさそうだから尚更」
笑い合った。
こんな風に心が通じ合うなんて考えてもみなかったから余計に嬉しかった。
