私達は十真君がマップアプリで確認したルートで歩いていくことにした。
わざわざ二人別々にアプリを立ち上げて見るのも何なので、必要な時には十真君のスマホの画面を覗かせてもらいながら移動していく。画面では何分か歩くとホテルのあたりに到着するらしかった。
駅前の華やかでてお洒落なビル群から遠ざかるようにして歩いていくと、周囲の建物はビジネス街っぽい、お堅い雰囲気になってきた。
「このへんはゲームセンターがありそうな雰囲気じゃないね」
「映画の中だとこういう街並みじゃなくて、飲み屋とかああいうのもあっただろ。それに建物の階数が少なかった。雑居ビルとか古い二、三階建てくらいの建物が多かった気がする」
「じゃ、結構遠いのかな」
「うーん、どうだろ。まずはホテルの側まで来てから考えようよ。目的地は潰れたゲーセンなんだから、今は更地か別な建物が建ってるかもしれない。ただホテルはある程度近くにあるだけですぐ側じゃなかったから、道をまたいでる可能性がある」
道をまたいでいれば街並みは変わってしまうかもしれない。
「とりあえずホテルまで行ってみて、もっと細かい情報と突き合わせていこう」
「うん」
そうだ。駅前の繁華街からビジネス街に抜けたタイミングにも、ある程度はっきりと街並みの様子は変わったのだ。このエリアを抜けたらまた変わるかもしれない。
少し歩くとそれほど迷うこともなくホテルの前に着いた。
「ここからどう行くんだろ。ちょっと確認してみようか。エレナさんもチェックしてみてくれる?」
「解った」
それぞれ自分のスマホで『きらきらの空』の動画のゲームセンターのシーンを睨んで、場所のヒントになる場所を探した。
(あの場所からこのホテルの看板が見えてた)
ゆるゆると看板がよく見える位置まで移動していく。
ゲームセンターの前から見るとほぼ正面が見えていた。だとするとあの場所はこの道沿いにあるはずだ。
「あっちだよ」「あっちだよ」
私と十真君の声が重なった。
お互いに少し驚きながら、視線でどちらが先に説明するかを確認し合う。十真君の話を先に聞きたかったからちょっと笑って譲る。
「側にチェーンの居酒屋があったから、ゲーセンの側に映ってた店の場所を検索してみたんだ。この道を歩いて信号を越えて少し行ったところにある。エレナさんは検索で見つけた訳じゃなさそうだね」
「うん、あの看板がほぼ正面から見えたのに気が付いて」
壁面のかなり上の方に出ているホテルの看板を指さしてみせると十真君が笑ってうなずいた。
さっき移動してきた時には信号を超えずに歩道をそのまま曲がるだけだったから意識していなかったけれど、反対側に曲がって信号を渡ったらそのまま行けたらしい。
私達は来た道を戻り、信号を渡った。
そうしてほどなく映画の中にも登場していた居酒屋さんを見つけた。他にも蕎麦屋さんもそのまま残っている。
ゲームセンターがあったはずの場所には建物はなかった。でも更地のままではなく、有料駐車場になっているようだ。
「ここだね。何だかゲーセン以外は割とそのままに近い感じだから不思議な気分だ」
「残ってたら中を見たりできたんだろうけど、でも……それでもいい気がする」
あのゲームセンターが当時のまま残っていたのだとしても、もう六年も経っているのだ。中のゲームはほぼ全部入れ替わっているだろうし、クレーンゲームで取れるものも違っている。こうして跡地に来られただけで充分だ。
私が笑みを浮かべているのを見て、十真君も笑った。
「ここにあったんだって解っただけでも面白かった」
レストランで話を聞いた後にはつらそうだったけれど、今の彼からはそういう印象はなくなっている。猫みたいに眼を細める可愛い笑顔を見ていたら気持ちが落ち着いた。
だからこそ次にどうしたらいいのか戸惑う。
私は十真君に「帰った方がいいんだと思うよ」と言った。わざわざ遠い海に行く代わりに潰れたゲームセンターの場所を見て、区切りにしてもらうつもりだったのだ。
でも今、何と彼に告げたらいいのか解らないでいる。もう帰ろうと言うべきなのか、そうじゃない言葉を告げたいのか、ものすごく迷っている。
「……あのね」
十真君を見上げて何とかその言葉を絞り出した時にも、どう言葉を続けるかちゃんと考えてはいなかった。一瞬後に後悔した。
わざわざ二人別々にアプリを立ち上げて見るのも何なので、必要な時には十真君のスマホの画面を覗かせてもらいながら移動していく。画面では何分か歩くとホテルのあたりに到着するらしかった。
駅前の華やかでてお洒落なビル群から遠ざかるようにして歩いていくと、周囲の建物はビジネス街っぽい、お堅い雰囲気になってきた。
「このへんはゲームセンターがありそうな雰囲気じゃないね」
「映画の中だとこういう街並みじゃなくて、飲み屋とかああいうのもあっただろ。それに建物の階数が少なかった。雑居ビルとか古い二、三階建てくらいの建物が多かった気がする」
「じゃ、結構遠いのかな」
「うーん、どうだろ。まずはホテルの側まで来てから考えようよ。目的地は潰れたゲーセンなんだから、今は更地か別な建物が建ってるかもしれない。ただホテルはある程度近くにあるだけですぐ側じゃなかったから、道をまたいでる可能性がある」
道をまたいでいれば街並みは変わってしまうかもしれない。
「とりあえずホテルまで行ってみて、もっと細かい情報と突き合わせていこう」
「うん」
そうだ。駅前の繁華街からビジネス街に抜けたタイミングにも、ある程度はっきりと街並みの様子は変わったのだ。このエリアを抜けたらまた変わるかもしれない。
少し歩くとそれほど迷うこともなくホテルの前に着いた。
「ここからどう行くんだろ。ちょっと確認してみようか。エレナさんもチェックしてみてくれる?」
「解った」
それぞれ自分のスマホで『きらきらの空』の動画のゲームセンターのシーンを睨んで、場所のヒントになる場所を探した。
(あの場所からこのホテルの看板が見えてた)
ゆるゆると看板がよく見える位置まで移動していく。
ゲームセンターの前から見るとほぼ正面が見えていた。だとするとあの場所はこの道沿いにあるはずだ。
「あっちだよ」「あっちだよ」
私と十真君の声が重なった。
お互いに少し驚きながら、視線でどちらが先に説明するかを確認し合う。十真君の話を先に聞きたかったからちょっと笑って譲る。
「側にチェーンの居酒屋があったから、ゲーセンの側に映ってた店の場所を検索してみたんだ。この道を歩いて信号を越えて少し行ったところにある。エレナさんは検索で見つけた訳じゃなさそうだね」
「うん、あの看板がほぼ正面から見えたのに気が付いて」
壁面のかなり上の方に出ているホテルの看板を指さしてみせると十真君が笑ってうなずいた。
さっき移動してきた時には信号を超えずに歩道をそのまま曲がるだけだったから意識していなかったけれど、反対側に曲がって信号を渡ったらそのまま行けたらしい。
私達は来た道を戻り、信号を渡った。
そうしてほどなく映画の中にも登場していた居酒屋さんを見つけた。他にも蕎麦屋さんもそのまま残っている。
ゲームセンターがあったはずの場所には建物はなかった。でも更地のままではなく、有料駐車場になっているようだ。
「ここだね。何だかゲーセン以外は割とそのままに近い感じだから不思議な気分だ」
「残ってたら中を見たりできたんだろうけど、でも……それでもいい気がする」
あのゲームセンターが当時のまま残っていたのだとしても、もう六年も経っているのだ。中のゲームはほぼ全部入れ替わっているだろうし、クレーンゲームで取れるものも違っている。こうして跡地に来られただけで充分だ。
私が笑みを浮かべているのを見て、十真君も笑った。
「ここにあったんだって解っただけでも面白かった」
レストランで話を聞いた後にはつらそうだったけれど、今の彼からはそういう印象はなくなっている。猫みたいに眼を細める可愛い笑顔を見ていたら気持ちが落ち着いた。
だからこそ次にどうしたらいいのか戸惑う。
私は十真君に「帰った方がいいんだと思うよ」と言った。わざわざ遠い海に行く代わりに潰れたゲームセンターの場所を見て、区切りにしてもらうつもりだったのだ。
でも今、何と彼に告げたらいいのか解らないでいる。もう帰ろうと言うべきなのか、そうじゃない言葉を告げたいのか、ものすごく迷っている。
「……あのね」
十真君を見上げて何とかその言葉を絞り出した時にも、どう言葉を続けるかちゃんと考えてはいなかった。一瞬後に後悔した。
