あの日と今日の空は重なる

「……孝信、どうしたの?」


 大江さんは鴨志田さんのことを呼び捨てするらしい。


「ボクも十真君に聞いておきたいことがある。憶えてないかもしれないし、嫌なことを思い出させるかもしれないんだけど、いいかな」


 今までの距離の近い、明るい感じだった彼から深刻な声が漏れる。


「はい──」


 お姉ちゃんも大江さんも何かに気付いたような様子だった。でも十真君は三人の様子が気になるものの、はっきりとした心当たりはないらしい。

 鴨志田さんは一度大きな溜息をついた。


「嫌だったら途中で話を切り上げてもいいからね。その時は話はやめるから」


 そう付け加え、ひどく真剣な声で話を続ける。


「──イズミーが亡くなった後に、中山さんとかムーやんとか、他の誰かでもいいんだけど、映画の話を聞いたりとかなかった?」

「どういう、意味ですか?」

「イズミーは将棋部員で映画部の部員じゃなかったから、ボク達が葬儀に参列したりとか、行っていいのか解らなくてご挨拶に行けてなかった。撮影は全部終わってたけど、映画の編集作業をするのを決めたのは亡くなってしばらく経ってからだから、誰も伊泉家に話を通さないままだったのかと気付いたんだ」

「武藤さんは葬式に来てくれましたけど、紀花さんは葬儀にも来てなかったです。ショックで外に出られる状態じゃなくなってるって武藤さんに聞きました。だから、その後一度もうちに来なくても変だとは思いませんでした」


 自分の彼氏が事故死したなら、紀花さんがショックを受けるのは当然だ。受け容れられなくても変じゃない。でも、その後もずっと来なかったというのは気になった。


「あっ、思い出した。中山さん、伊泉君が亡くなった後学校来なくなって、十月くらいに学校を退学してたはず。二年の女子はみんな同情してた。泣いてた子も何人もいたよ。若間ちゃんも泣いてた」

「ボクも定時制の学校に転校したっていう話は聞いてる」

「私は全然知らなかった。ごめんなさい。伊泉君と付き合ってた話は憶えてるけど」


 紀花さんと同学年のお姉ちゃん、同じ学校でも年上の鴨志田さん、映画には一緒に出ていても別の学校の生徒だった大江さん、そして一真さんの弟である十真君、それぞれの知っていることが違っている。私一人だけが何も知らなくていたたまれなかった。


「今思うと、葬儀には行けなくても焼香くらいはさせてもらえるように話をしてみた方がよかったと思うよ。いくらうちの部員じゃなくても、イズミーは『きら空』作ったボクらの仲間だったんだから。十真君、ご家族の都合のいい日に行ってもいいか訊いてもらえるかな」

「解りました。伝えておきます」

「あ、これボクの名刺。返事もらえたらメールか電話で連絡してくれると……」


 鴨志田さんが取り出した名刺を受け取り、十真君は自分のスマホケースのスリットにしまっている。


「あっ、食事来るみたいよ」


 大江さんが小さく声をかけたのをきっかけに、話は終わった。

 食事中には一真さんやお葬式の話は出なかった。あんまり衝撃が大きすぎて、どれもおいしかったはずなのに夏野菜の冷製スープ以外は何を食べたのかろくに思い出せなかった。

 できればデザートくらいはどんな味なのか憶えていたかったけれど、それは言っても仕方がない。でも冷製スープはすごくおいしかった。多分他のものもおいしかったのだろう。