「……ああ」
六年前に作られた、さほど面白くはない、月並みな架空の物語。
あの空の下に一真さんがいた。お姉ちゃんもいた。一真さんの彼女も、プロの俳優になったらしいヒロイン役の美人も、実際に一真さんの友達だったらしい主役の男の子もいた。
演技こそ拙いけれど楽しそうな時間がそこにあった。
「私、あの場所にいたかったんだ……」
意識せず、すごく間抜けなことを口走っていた自分に呆れてしまう。これじゃ『くまのパディントン』の本を読んでパディントン駅に住みたいと言い出すようなものだ。そんなことに、一真さんの身内である十真君を巻き込んでいる事実がのしかかってきて、自分がますます間抜けに思えた。
それなのに十真君は一真さんにそっくりで、本当に『きらきらの空』の中にいるような気持ちが滲んでくる。
だからこそ余計に、こんなことに付き合わせている罪悪感が消えない。
「ねえ、十真君」
隣りにいる十真君を見る。
眼が合った。どうやら私のことを見ていたらしい。
「──うん?」
互いに眼を覗き込むような状況になってしまった。男の子の顔をこんな間近で見たのは初めてだった。
瞼のラインがとても綺麗で、何だかもどかしいような思いが湧いてくる。一真さんの演じていたショウタは脇役なので、こんなアップになったシーンはひとつもないから尚更動揺していた。
だから余計にどう反応していいのか解らなかった。
私が少し慌てているのを見て、十真君が驚いたように眼を見開く。
「わ、ごめん……最初はもしかしたらそこ開けて空見たいかなって思って訊こうかと思ってたんだけど、無心に見てるから……何だか……ついエレナさんを見てた」
十真君は少し笑おうとした後、困った顔になっていた。もしかしたら何か私が間抜けなことをしていたりとかで、それをうまく指摘できなくて困っているんだろうか。そもそもそれ以前に人前でぼうっと空を見上げているの自体が間抜けだったかもしれない。
「こちらこそごめんね。私もたまにぼうっとするみたいで、お姉ちゃんに鼻をつままれたりするし……変だったよね」
「そんなことするつもりじゃなくて、何ていうか、そんな風に見てる空が、すごくいいものみたいに見えたんだ。連れてきてよかったなって思った」
照れたような笑みが、すごくやさしく見えた。
「あ、あと、それに光の加減で眼が青っぽかったなって思ったら、眼の色の方は青じゃなくてちょっとだけ緑っぽいんだなとか、そんなこと考えてた」
「緑っていうほど緑じゃないんだけど、たまにそれっぽく見えるかも。お母さんはちゃんと緑色なんだよ。お姉ちゃんは茶色なんだけど私はその中間くらいかな」
「そっか。明るい色だとそういうのがあるんだ」
こんな風に話していると、じんわりとあたたかい気持ちが湧いてくる。
十真君はすごくいい人だ。親切で、いきなり現れた私のような人間のことも面倒がらずに学校の中を案内してくれた。
もう学校のシーンについては教室やグラウンドくらいしかない。どこの教室も基本的には代わり映えしないし、グラウンドなんかは帰る間際に覗いていくこともできるだろう。そろそろ帰るつもりだと言うべきじゃないだろうか。
「あのね、多分映画に出てくるシーンですぐ見られそうなところは校舎の中は一通り見たと思うんだ。だから……もうそろそろ帰った方がいいのかなって」
「あとは中で見られるのは教室くらいかな。どこの教室だろ」
スマホを取り出して、十真君が映画を確認している。
「うーん……教室プレート出てる。2-Bかな」
「お姉ちゃんのクラスが2-Bだったと思う」
「行ってみる?」
「──うん」
明るい笑顔でそう訊かれたら、帰るよなんて言えるはずがない。だって楽しい。
六年前に作られた、さほど面白くはない、月並みな架空の物語。
あの空の下に一真さんがいた。お姉ちゃんもいた。一真さんの彼女も、プロの俳優になったらしいヒロイン役の美人も、実際に一真さんの友達だったらしい主役の男の子もいた。
演技こそ拙いけれど楽しそうな時間がそこにあった。
「私、あの場所にいたかったんだ……」
意識せず、すごく間抜けなことを口走っていた自分に呆れてしまう。これじゃ『くまのパディントン』の本を読んでパディントン駅に住みたいと言い出すようなものだ。そんなことに、一真さんの身内である十真君を巻き込んでいる事実がのしかかってきて、自分がますます間抜けに思えた。
それなのに十真君は一真さんにそっくりで、本当に『きらきらの空』の中にいるような気持ちが滲んでくる。
だからこそ余計に、こんなことに付き合わせている罪悪感が消えない。
「ねえ、十真君」
隣りにいる十真君を見る。
眼が合った。どうやら私のことを見ていたらしい。
「──うん?」
互いに眼を覗き込むような状況になってしまった。男の子の顔をこんな間近で見たのは初めてだった。
瞼のラインがとても綺麗で、何だかもどかしいような思いが湧いてくる。一真さんの演じていたショウタは脇役なので、こんなアップになったシーンはひとつもないから尚更動揺していた。
だから余計にどう反応していいのか解らなかった。
私が少し慌てているのを見て、十真君が驚いたように眼を見開く。
「わ、ごめん……最初はもしかしたらそこ開けて空見たいかなって思って訊こうかと思ってたんだけど、無心に見てるから……何だか……ついエレナさんを見てた」
十真君は少し笑おうとした後、困った顔になっていた。もしかしたら何か私が間抜けなことをしていたりとかで、それをうまく指摘できなくて困っているんだろうか。そもそもそれ以前に人前でぼうっと空を見上げているの自体が間抜けだったかもしれない。
「こちらこそごめんね。私もたまにぼうっとするみたいで、お姉ちゃんに鼻をつままれたりするし……変だったよね」
「そんなことするつもりじゃなくて、何ていうか、そんな風に見てる空が、すごくいいものみたいに見えたんだ。連れてきてよかったなって思った」
照れたような笑みが、すごくやさしく見えた。
「あ、あと、それに光の加減で眼が青っぽかったなって思ったら、眼の色の方は青じゃなくてちょっとだけ緑っぽいんだなとか、そんなこと考えてた」
「緑っていうほど緑じゃないんだけど、たまにそれっぽく見えるかも。お母さんはちゃんと緑色なんだよ。お姉ちゃんは茶色なんだけど私はその中間くらいかな」
「そっか。明るい色だとそういうのがあるんだ」
こんな風に話していると、じんわりとあたたかい気持ちが湧いてくる。
十真君はすごくいい人だ。親切で、いきなり現れた私のような人間のことも面倒がらずに学校の中を案内してくれた。
もう学校のシーンについては教室やグラウンドくらいしかない。どこの教室も基本的には代わり映えしないし、グラウンドなんかは帰る間際に覗いていくこともできるだろう。そろそろ帰るつもりだと言うべきじゃないだろうか。
「あのね、多分映画に出てくるシーンですぐ見られそうなところは校舎の中は一通り見たと思うんだ。だから……もうそろそろ帰った方がいいのかなって」
「あとは中で見られるのは教室くらいかな。どこの教室だろ」
スマホを取り出して、十真君が映画を確認している。
「うーん……教室プレート出てる。2-Bかな」
「お姉ちゃんのクラスが2-Bだったと思う」
「行ってみる?」
「──うん」
明るい笑顔でそう訊かれたら、帰るよなんて言えるはずがない。だって楽しい。
