「あ、そうだ。校舎の中のシーンも結構あったし、中見に行こうか。廊下ドローンで飛ばしてたところとかもここじゃないかっていう場所あったし」
「うん、面白そう」
十真君が歩き出した。私も一歩遅れて隣に並ぶ。昇降口の下駄箱が見えてきたあたりで、十真君は持っていたビニール袋を私に差し出した。
「これスリッパ。靴は俺の下駄箱に入れておく?」
「いいの?」
「そのへん置いといて見咎められても、来客用の下駄箱に入れてくれって言われるのも面倒だろうから。抵抗あるならその袋に靴入れて持ってきちゃってもいいと思うけど」
ちゃんとした用事で学校に来たのなら来客用の下駄箱を使っただろうけど、個人的な理由で勝手に入るのでそんなところに靴を置いてきたくなかった。かといってこの後スリッパをまたしまう袋に土足を入れるのも気が引ける。
私はスリッパを出して履くと、空になったビニール袋を十真君のらしい下駄箱の空いている段に敷いて、ありがたく靴を入れさせてもらうことにした。
「こっちからの方が見やすいから」
十真君に先導されて、廊下を進んでいく。
一階の教室の脇を抜けて奥まで行ってから階段を上ると、十真君がちょっと笑って廊下を指差す。
「あ……」
廊下には誰もいないから、映画と同じように突き当たりまで、教室側の窓と廊下側の窓の景色、置かれているロッカーも全部見える。
映画ではこのまま廊下を進んでいた。
私は少し歩き出し、その後いつの間にか早足になっていた。
記憶の中にある通り、階段を進む。そのまま踊り場で向きを変え、まだ上へ。映画だとそのまま屋上へ抜けて、空が見えるのだ。
でも、私は足を止めた。
屋上へ進むらしい階段は金属製のドアで閉ざされている。
「開いてない……よね」
大体の学校は屋上は開放されていないらしいから、不思議ではなかった。私の通っていた中学でも一律禁止だったはずだ。
「うん、ただ屋上を使う部はあって、そういう時には先生が鍵を持ってきて開けてる」
「そうなんだ? 何部が使ってるの?」
うちの高校では屋上はよくオーケストラ部とか演劇部が使っている。
「園芸部とか天文部とか。あと他の部も場所が足りない時には使ってるし、文化祭とかで場所が狭い時とかも使うかな。多分屋上に飛んでくシーンは許可を取ってやってるとは思う」
よその学校の屋上の使い方の違いについて聞いて面白かったけど、どのみち今見ることはできないのだ。そう思うとどうしてもしょんぼりしてしまう。
「屋上には入れないけど、近い景色なら見られるよ。こっち」
そう言うと私の手を引いて階段を降りていく。
「わ」
びっくりして大きな声が出そうになった。でも何となくそうしたくないような気がして声を押し殺す。
十真君の歩いた距離はそれほど長くはなかった。下の階へ降りる前、踊り場のところで足を止め、手を放した。
やや高いところにある、普段は開けないだろう窓から、タイトルバックのシーンと同じ青空をただ見る。あの映画ではちょっと野暮ったいタイトルロゴが表示されているはずだけれど、もちろんそこにあるのは青空だけだった。
鮮やかな青と、かすかな白い雲のコントラストが綺麗で、じんわりと幸せな気分になった。
「うん、面白そう」
十真君が歩き出した。私も一歩遅れて隣に並ぶ。昇降口の下駄箱が見えてきたあたりで、十真君は持っていたビニール袋を私に差し出した。
「これスリッパ。靴は俺の下駄箱に入れておく?」
「いいの?」
「そのへん置いといて見咎められても、来客用の下駄箱に入れてくれって言われるのも面倒だろうから。抵抗あるならその袋に靴入れて持ってきちゃってもいいと思うけど」
ちゃんとした用事で学校に来たのなら来客用の下駄箱を使っただろうけど、個人的な理由で勝手に入るのでそんなところに靴を置いてきたくなかった。かといってこの後スリッパをまたしまう袋に土足を入れるのも気が引ける。
私はスリッパを出して履くと、空になったビニール袋を十真君のらしい下駄箱の空いている段に敷いて、ありがたく靴を入れさせてもらうことにした。
「こっちからの方が見やすいから」
十真君に先導されて、廊下を進んでいく。
一階の教室の脇を抜けて奥まで行ってから階段を上ると、十真君がちょっと笑って廊下を指差す。
「あ……」
廊下には誰もいないから、映画と同じように突き当たりまで、教室側の窓と廊下側の窓の景色、置かれているロッカーも全部見える。
映画ではこのまま廊下を進んでいた。
私は少し歩き出し、その後いつの間にか早足になっていた。
記憶の中にある通り、階段を進む。そのまま踊り場で向きを変え、まだ上へ。映画だとそのまま屋上へ抜けて、空が見えるのだ。
でも、私は足を止めた。
屋上へ進むらしい階段は金属製のドアで閉ざされている。
「開いてない……よね」
大体の学校は屋上は開放されていないらしいから、不思議ではなかった。私の通っていた中学でも一律禁止だったはずだ。
「うん、ただ屋上を使う部はあって、そういう時には先生が鍵を持ってきて開けてる」
「そうなんだ? 何部が使ってるの?」
うちの高校では屋上はよくオーケストラ部とか演劇部が使っている。
「園芸部とか天文部とか。あと他の部も場所が足りない時には使ってるし、文化祭とかで場所が狭い時とかも使うかな。多分屋上に飛んでくシーンは許可を取ってやってるとは思う」
よその学校の屋上の使い方の違いについて聞いて面白かったけど、どのみち今見ることはできないのだ。そう思うとどうしてもしょんぼりしてしまう。
「屋上には入れないけど、近い景色なら見られるよ。こっち」
そう言うと私の手を引いて階段を降りていく。
「わ」
びっくりして大きな声が出そうになった。でも何となくそうしたくないような気がして声を押し殺す。
十真君の歩いた距離はそれほど長くはなかった。下の階へ降りる前、踊り場のところで足を止め、手を放した。
やや高いところにある、普段は開けないだろう窓から、タイトルバックのシーンと同じ青空をただ見る。あの映画ではちょっと野暮ったいタイトルロゴが表示されているはずだけれど、もちろんそこにあるのは青空だけだった。
鮮やかな青と、かすかな白い雲のコントラストが綺麗で、じんわりと幸せな気分になった。
