あの日と今日の空は重なる

 私、鈴峰(すずみね)エレナのスマホに、アニカお姉ちゃんからいきなり電話が入った時、何を言われたのかよく解らなかった。


「エレちゃん、今家にいる? 戸棚の左の二番目の引き出しにあるブックレット一冊出しといてよ。制服の女の子が写ってる表紙のやつ。あと三十分くらいで行くからよろしくね」


 問い返そうと思ったけれど、その時にはもう電話は切れていた。

 お姉ちゃんは今、この家に住んでいない。大学卒業した後に就職して一人暮らしだ。お姉ちゃんの部屋にはまだ荷物が少し残っていて、要るものがあるとたまに車で取りに戻ってくる。衣替えの服とか読んでた本とか持っていかなかった棚とかだ。

 でも、何だかよく解らないブックレットを取りに来るとかいうのは初めてで、首を傾げながらお姉ちゃんの部屋に向かった。

 戸棚には割とごちゃごちゃと物が残っている。左の二番目の引き出しも何だかいろいろ入っていたけれど、制服の女の子の写真を目印にそれっぽいものを見つけた。

『きらきらの空』というタイトルがついてて、何だか映画みたいな感じだった。同じのが何冊か入っている。


「あれ?」


 一番上にある冊子を持つと何かに引っかかってうまく取れなかった。破ったりしない程度に引っ張ると、冊子と一緒に紙の袋もくっついてきて落ちた。どうやら冊子の角に袋を曲げた部分が引っかかっていたらしい。持ち上げた表紙のせいで袋がひっくり返った。

 ぱらぱらと中身がこぼれ出る。


(これ、写真だ)


 慌てて引き出しの中に散らばった数枚の写真を拾い上げた。

 何人かの男女の写真だ。制服姿のものもあれば私服姿のものもある。同じ人が写っていたりする。仲間内の写真のようだ。
 ふと気になって制服姿の写真を見てみる。


(あ、これお姉ちゃんの学校の制服だ)


 そもそも頼まれた冊子の表紙に写っている女の子も同じ制服を着ている。気になって冊子と写真をそれぞれ覗いてみた。

 冊子に書かれていた説明書きからすると、どうも自主制作映画のスクリーンショットや写真を載せてあるらしい。登場人物の名前や短いテキストが添えられている。この写真はその登場人物になっている生徒達のスナップ写真のようだった。同じ写真が小さくまとめられているページがあった。

 読んでいる途中で何となく、一人の男子のことを眼で追っていることに気が付いた。

 主役の男の子じゃなくて、その友達を演じている子のようだ。主役の男の子とヒロイン役の女の子はかなり端正な顔立ちで、新人タレントさんにもいそうな感じだった。

 それと較べるとある程度整ってはいるものの割と普通の子っぽく見える。背も主役の子と較べると少し低い。

 でも、決して整っていない訳ではなくて、充分好ましい感じだと思った。笑ってるシーンで眼が細まるのが、何だか猫が眼を細めたみたいになってるのが可愛かった。

 この子が登場しているのだと思ったら、何だか映画の方も気になった。

 パンフレットをちゃんと読んでみると、巻末にタイトル、監督、キャスト、スタッフ、公開日が書かれている箇所と、動画投稿サイトへのリンクらしいQRコードが載っている。スタッフの欄に『Anica Suzumine』とお姉ちゃんの名前も書かれていた。どうやらお姉ちゃんもこの『きらきらの空』の関係者らしい。

 読んでいる途中で、高校の頃お姉ちゃんが映画部に入っていたのをやっと思い出す。


「うん、お姉ちゃんが出てるかもしれないんだよね?」


 そんな風に声に出したのが自分でも少しわざとらしいと思いながら、冊子を自分の部屋まで持ってきて、スマホでQRコードを写すと、動画投稿サイトのページを開いた。

 六年前の動画だ。古いし素人が作っているのだから、そんなにちゃんとしたものではないかもしれない。そう言い聞かせながら、動き始めた画面に集中する。

 学校の廊下を「飛んでいる」ようにカメラが移動する。


(ドローン?)


 今はドローンで撮影している動画なんて珍しくないけれど、六年前の、高校の自主制作映画でこんな風に飛ぶのを見るとは思わなかった。

 そのまま窓から抜けて、空へ。そしてタイトルがしばらく表示されて消えた。

 その後の話は主役の男の子がクラスの気になる女の子と仲よくなったり、友達も含めて文化祭で一緒に回ったり、出かけたり。そしていい雰囲気になって告白してOKしてもらう、やたらとドローンで飛ぶシーンが多い以外はごくありがちな話だった。

 すごく面白かった訳じゃないし、演じてる子達も、ヒロイン役の女の子がちょっとうまい以外はみんな上手という訳でもない。どちらかといえば下手な方。文化祭のシーンで何故かお姉ちゃんが屋台でたこ焼きを焼いていたのも面白くて不思議だったくらいだ。

 ただ、あの男の子も含めてみんながとても楽しそうに見えた。たこ焼きを焼いてるちょい役のお姉ちゃんすらそうだ。できればこの場に一緒にいて、みんなが笑ったり何かしてるところを見たりしていたかった。

 ラストシーンの海でみんなが遊ぶシーンで、そこから抜け出した主役カップルが気持ちを確認し合うところで終わっていた。ちょっと特徴のある岩が見えている場所なので、その場に行けばすぐ解りそうだ。

 何だか、その様子を見ていたら少しだけ胸が苦しくなった。

 ありがちなラブストーリーにどきどきした訳でもない。


(もしかして……この出てる人達のこと、お姉ちゃん知ってるのかな)


 同じ映画に出ていたのなら知っていてもおかしくない。お姉ちゃんが家に着いたらその時に訊いてみよう。