めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】

その時「デザートでございます」とマスターがケーキを運んできた。

小ぶりのホールケーキに筆記体で書かれていたのは
『Congratulations on your engagement』

二人で、えっ!と驚いた。

「すみません。いつでも出せるように準備して、ずっと様子をうかがっておりました」

申し訳なさそうに詫びるマスターにポカンとしてから、花穂と大地は顔を見合わせて笑う。

「さすがはマスター。なんでもお見通しですね」
「いえ。お二人の大切な瞬間に立ち会えて、大変嬉しく思います。浅倉様、当店をプロポーズの場所に選んでいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ。おかげで雰囲気に酔わせてOKをもらえました」
「なにをおっしゃいますやら。ねえ、花穂さん」

花穂は、ふふっと笑みをもらす。

「はい。大地さんなら、たとえどんなシチュエーションでもイエスと答えます。だけどこの場所でプロポーズされたのがなにより嬉しくて。ここは私たちにとって、大切な思い出の場所だから」

マスターは神妙な顔で頭を下げた。

「ありがとうございます。ただお酒を飲む場所にすぎない当店を、そんなふうに大切にしてくださるなんて。そんな時間をご提供できたことをとても光栄に思います」
「また記念日ごとに寄らせてください」
「もちろんでございます。いつでもお待ちしております」

最後にマスターは「改めて、ご婚約誠におめでとうございます。どうぞ末永くお幸せに」と笑って頭を下げた。