「花穂、そろそろ行くぞ」
会議室で持ち物の最終チェックをしていた花穂は、大地に声をかけられて顔を上げる。
「はい、今行きます」
タブレットや装飾に使う小道具をまとめてから立ち上がり、タタッと近づくと、大地はさり気なく花穂の手から荷物を受け取った。
「ありがとう」
「ん」
前を向いたまま無表情の大地に、花穂はふふっと笑う。
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
そっけない態度だけど、優しさが伝わってくる、というのは本人には内緒だ。
(言ったらブスッて拗ねちゃうもんね。それもまたいいんだけど。うふふ)
すると大地が怪訝そうに口を開く。
「おかしなやつだな。なにがそんなに楽しい?」
「ふふっ、全部」
「は? やれやれ」
そんな大地に、またしても花穂は微笑んだ。
想いが結ばれたクリスマスイブから1ヶ月が経ち、花穂は大地と幸せな日々を重ねている。
今日はホテル フィオーレに、バレンタインイベントの準備をしに行くことになっていた。
「荷物も多いし、車で行くか」
「はい、ありがとうございます。そう言えば大森さんは?」
「ロビーで落ち合うことになってる。あ、いた……ってあいつ、また仕事も忘れてデレデレしやがって」
1階のロビーでは、大森が受付カウンターの女子社員と楽しそうに話していた。
クリスマスイブの合コンで仲良くなり、つき合うことになったらしい。
「大森、行くぞ」
「おっ、大地に花穂ちゃん。今行く。じゃあね、あゆちゃん。また今夜」
にこにこと彼女に手を振ってから、大森はご機嫌で近づいて来た。
「まったく。仕事中だぞ?」
「おいおい。それはこっちのセリフですよ、大地くん」
「なんでだよ」
「ぴったり彼女にくっついちゃってさ。俺の女だぜ、ってオーラがすごいですけど?」
「どこがだ」
「うわー、自覚なしか。愛は盲目だな。ね、花穂ちゃん」
すると大地は、ギロッと大森を睨む。
「おい、気安く名前を呼ぶな」
「ほーらね。俺の女だぞってビームがビシバシ飛んでますよ」
「うるさい!」
二人のやり取りに花穂は苦笑いする。
つき合うことになったと伝える前に、大森は大地の様子にすぐに気づいて、からかってきた。
「いつの間にー? あの大地くんが恋しちゃったら、そりゃもう純情一途ですよねー」
その時も大地は「うるさい!」と一蹴して睨んでいたっけ。
(でも大地さん、私と二人きりの時はすごく優しい。そのギャップがたまらないのよね)
思わずうつむいて頬を緩めていると、大森が今度は花穂の顔を覗き込んできた。
「花穂ちゃんも、かーわいい! 恋する乙女だね」
グイッと大地が、大森の首根っこを掴んで引き離す。
「それ以上近づいてみろ。星の彼方までふっ飛ばしてやる」
「やめてー。あゆちゃんに会えなくなるー」
「なら黙ってろ」
「はーい」
3人で賑やかに車に乗り込み、ホテル フィオーレに向かう。
バレンタインイベントに関しては既に須崎支配人と打ち合わせ済みで、企画案通りにセッティングと装飾を終えた。
「では次回は撤収と、ホワイトデーの準備に参りますね」
「はい、よろしくお願いします。ありがとうございました」
須崎に笑顔で見送られて、3人は車で帰社した。
「二人とも、このあと少し時間あるか?」
車を地下駐車場に停めると、大地が二人を振り返る。
「あるけど、なんだ? どうかしたのか?」
大森の返事に、花穂も同じような表情を大地に向けた。
「ちょっと話がある。会議室に行こう」
そう言って車を降りた大地に、花穂は大森と顔を見合わせて首をひねった。
会議室で持ち物の最終チェックをしていた花穂は、大地に声をかけられて顔を上げる。
「はい、今行きます」
タブレットや装飾に使う小道具をまとめてから立ち上がり、タタッと近づくと、大地はさり気なく花穂の手から荷物を受け取った。
「ありがとう」
「ん」
前を向いたまま無表情の大地に、花穂はふふっと笑う。
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
そっけない態度だけど、優しさが伝わってくる、というのは本人には内緒だ。
(言ったらブスッて拗ねちゃうもんね。それもまたいいんだけど。うふふ)
すると大地が怪訝そうに口を開く。
「おかしなやつだな。なにがそんなに楽しい?」
「ふふっ、全部」
「は? やれやれ」
そんな大地に、またしても花穂は微笑んだ。
想いが結ばれたクリスマスイブから1ヶ月が経ち、花穂は大地と幸せな日々を重ねている。
今日はホテル フィオーレに、バレンタインイベントの準備をしに行くことになっていた。
「荷物も多いし、車で行くか」
「はい、ありがとうございます。そう言えば大森さんは?」
「ロビーで落ち合うことになってる。あ、いた……ってあいつ、また仕事も忘れてデレデレしやがって」
1階のロビーでは、大森が受付カウンターの女子社員と楽しそうに話していた。
クリスマスイブの合コンで仲良くなり、つき合うことになったらしい。
「大森、行くぞ」
「おっ、大地に花穂ちゃん。今行く。じゃあね、あゆちゃん。また今夜」
にこにこと彼女に手を振ってから、大森はご機嫌で近づいて来た。
「まったく。仕事中だぞ?」
「おいおい。それはこっちのセリフですよ、大地くん」
「なんでだよ」
「ぴったり彼女にくっついちゃってさ。俺の女だぜ、ってオーラがすごいですけど?」
「どこがだ」
「うわー、自覚なしか。愛は盲目だな。ね、花穂ちゃん」
すると大地は、ギロッと大森を睨む。
「おい、気安く名前を呼ぶな」
「ほーらね。俺の女だぞってビームがビシバシ飛んでますよ」
「うるさい!」
二人のやり取りに花穂は苦笑いする。
つき合うことになったと伝える前に、大森は大地の様子にすぐに気づいて、からかってきた。
「いつの間にー? あの大地くんが恋しちゃったら、そりゃもう純情一途ですよねー」
その時も大地は「うるさい!」と一蹴して睨んでいたっけ。
(でも大地さん、私と二人きりの時はすごく優しい。そのギャップがたまらないのよね)
思わずうつむいて頬を緩めていると、大森が今度は花穂の顔を覗き込んできた。
「花穂ちゃんも、かーわいい! 恋する乙女だね」
グイッと大地が、大森の首根っこを掴んで引き離す。
「それ以上近づいてみろ。星の彼方までふっ飛ばしてやる」
「やめてー。あゆちゃんに会えなくなるー」
「なら黙ってろ」
「はーい」
3人で賑やかに車に乗り込み、ホテル フィオーレに向かう。
バレンタインイベントに関しては既に須崎支配人と打ち合わせ済みで、企画案通りにセッティングと装飾を終えた。
「では次回は撤収と、ホワイトデーの準備に参りますね」
「はい、よろしくお願いします。ありがとうございました」
須崎に笑顔で見送られて、3人は車で帰社した。
「二人とも、このあと少し時間あるか?」
車を地下駐車場に停めると、大地が二人を振り返る。
「あるけど、なんだ? どうかしたのか?」
大森の返事に、花穂も同じような表情を大地に向けた。
「ちょっと話がある。会議室に行こう」
そう言って車を降りた大地に、花穂は大森と顔を見合わせて首をひねった。



