「今回ご依頼があったのは、赤坂の名門ホテル セレストの創業50周年記念式典での演出です。場所はホテル セレスト55階のバンケットホール。日時は2ヵ月半後の7月7日、午後7時から。そこから逆算してスケジュールを組みました」
そう言って花穂は、工程を書き加えたカレンダーを映し出す。
「まず、5月15日までには先方から演出のゴーサインをいただけるよう、いくつかの案を提示いたします。そこから準備や作業を開始し、6月末日までに実演で先方のチェックOKをもらい、7月は微調整のみで当日を迎える予定です」
他の3人が黙って画面を見つめているのを確かめると、花穂は次の画面に切り替えた。
「現在、私と織江さんで進めている案はこちらです。テーマは『星の記憶でたどるセレストの50年』。天空という意味合いの『セレスト』からイメージしました。ホテルの歴史を星の輝きと共に振り返ります。空間デザインのポイントとしては、大きく3つ。まずは、壁にゆらぐ布に背面から光を投影させたオーロラ。それからゲストが歩く度に光るマイクロファイバーの絨毯、そして天井全体を使った星空のプロジェクションマッピングです」
すると大地が、花穂と目を合わせて口を開く。
「プロジェクションマッピングの内容は?」
「はい。まずはホールの前方スクリーンに夜空を映し出し、そこにひとつの星が輝きます。それがホテル セレストの誕生。そこからホテルが歩んできた軌跡を、記憶の星として振り返ります。ホテルのチャペルでの結婚式や、レストランでの家族のお祝いの席といったお客様のエピソードを紹介し、その度に星がひとつずつ増え、最後にはホールの天井をドーム状に使って満天の星を投影します。たくさんの思い出が輝き、この先も光は増え続ける、そんな印象に仕上げたいと思っています」
花穂が話し終えても、大地はじっと何かを考えたまま押し黙る。
このアイデアは否定されるのかも、と花穂は不安に駆られた。
簡単にプロジェクションマッピングを投影すると言ってしまったが、実際に映像を作るのは大地で、それを綺麗に映し出すには大森の技術が必要だ。
よく知りもしないで簡単に言うな、と咎められても仕方がない。
花穂は、ちらりと織江に視線を移した。
気づいた織江が、大丈夫というようににっこり笑って頷く。
今回織江は、最初から花穂が一人でやってみてと言い、あくまで自分は相談役に徹していた。
これでどうでしょうかと企画書を見せると、いいじゃない!と言ってくれたが、やはりそれは身内目線だったからなのか。
大地と大森の賛同が得られなければ、1からアイデアを練り直さなければならない。
それを覚悟して、花穂が小さく肩を落とした時だった。
「分かった、これでいこう」
大地の声がして、花穂はハッと顔を上げる。
「よろしいのでしょうか?」
「ああ。先方に話して資料をもらい、すぐに着手する。大森、投影に際しての注文はないな?」
大森は頭の後ろで両手を組み、背もたれに身を預けながら軽く答えた。
「はいよー。なんでも来ーい」
「よし。次回はこのメンバーで実際のホールに下見に行く。先方と相談して、日程が決まり次第報告する。以上だ」
そう言うと大地は資料を手に立ち上がり、スタスタと部屋を出て行く。
花穂はポカンとしながらその後ろ姿を見送った。
そう言って花穂は、工程を書き加えたカレンダーを映し出す。
「まず、5月15日までには先方から演出のゴーサインをいただけるよう、いくつかの案を提示いたします。そこから準備や作業を開始し、6月末日までに実演で先方のチェックOKをもらい、7月は微調整のみで当日を迎える予定です」
他の3人が黙って画面を見つめているのを確かめると、花穂は次の画面に切り替えた。
「現在、私と織江さんで進めている案はこちらです。テーマは『星の記憶でたどるセレストの50年』。天空という意味合いの『セレスト』からイメージしました。ホテルの歴史を星の輝きと共に振り返ります。空間デザインのポイントとしては、大きく3つ。まずは、壁にゆらぐ布に背面から光を投影させたオーロラ。それからゲストが歩く度に光るマイクロファイバーの絨毯、そして天井全体を使った星空のプロジェクションマッピングです」
すると大地が、花穂と目を合わせて口を開く。
「プロジェクションマッピングの内容は?」
「はい。まずはホールの前方スクリーンに夜空を映し出し、そこにひとつの星が輝きます。それがホテル セレストの誕生。そこからホテルが歩んできた軌跡を、記憶の星として振り返ります。ホテルのチャペルでの結婚式や、レストランでの家族のお祝いの席といったお客様のエピソードを紹介し、その度に星がひとつずつ増え、最後にはホールの天井をドーム状に使って満天の星を投影します。たくさんの思い出が輝き、この先も光は増え続ける、そんな印象に仕上げたいと思っています」
花穂が話し終えても、大地はじっと何かを考えたまま押し黙る。
このアイデアは否定されるのかも、と花穂は不安に駆られた。
簡単にプロジェクションマッピングを投影すると言ってしまったが、実際に映像を作るのは大地で、それを綺麗に映し出すには大森の技術が必要だ。
よく知りもしないで簡単に言うな、と咎められても仕方がない。
花穂は、ちらりと織江に視線を移した。
気づいた織江が、大丈夫というようににっこり笑って頷く。
今回織江は、最初から花穂が一人でやってみてと言い、あくまで自分は相談役に徹していた。
これでどうでしょうかと企画書を見せると、いいじゃない!と言ってくれたが、やはりそれは身内目線だったからなのか。
大地と大森の賛同が得られなければ、1からアイデアを練り直さなければならない。
それを覚悟して、花穂が小さく肩を落とした時だった。
「分かった、これでいこう」
大地の声がして、花穂はハッと顔を上げる。
「よろしいのでしょうか?」
「ああ。先方に話して資料をもらい、すぐに着手する。大森、投影に際しての注文はないな?」
大森は頭の後ろで両手を組み、背もたれに身を預けながら軽く答えた。
「はいよー。なんでも来ーい」
「よし。次回はこのメンバーで実際のホールに下見に行く。先方と相談して、日程が決まり次第報告する。以上だ」
そう言うと大地は資料を手に立ち上がり、スタスタと部屋を出て行く。
花穂はポカンとしながらその後ろ姿を見送った。



