「すごいですね! ハイブランドのお店なのに、こんなにギュウギュウになってるなんて」
店に入ろうとするカップルにドアマンがうやうやしく頭を下げ、店内の混雑の為、入場を制限していると話している。
「クリスマス前だからな。一番忙しい時期なんだろう」
「なるほど。でもここまでくると、もはや店内の装飾なんて誰も見てくれなさそうですね」
「そんなことはない。外からだと分かりづらいけど、中にいればたくさんの煌めきが目に飛び込んでくる。それにショーケースも、クリスタルが華やかにジュエリーを引き立てている」
「そうだといいなあ」
ガラス越しに店内の様子を見守っていると、通りに面したディスプレイに目を留めた女の子が隣の彼の腕を引いた。
「わあ、見て。この指輪すごく素敵。大人っぽくて高級感があって、憧れちゃうな」
「うん、いいね。じゃあエンゲージリングはこれにしようか」
「えっ!」
女の子は驚いたように目を見開いたあと、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
(ええ!? ど、どうしたのかしら)
身体を固くして横目で様子をうかがっていると、彼が優しく女の子を抱きしめた。
「返事は指輪を贈った時にちょうだい」
「うんっ!」
女の子はギュッと彼に抱きついて胸に顔をうずめている。
「ははっ、これでノーって言われたら立ち直れないな」
彼の言葉に、ようやく花穂は理解する。
(こ、これは、もしや。そういうシチュエーション? なんて素敵なの、ドラマみたい)
真っ赤になって固まっていると、大地が繋いだ手を引いて歩き出した。
「おい、いくら感激したからって泣くなよ。いい迷惑だ」
「な、泣いて、なんか、ううっ」
「こら! 人の服で顔を拭うな」
「大丈夫です、泣いてませんから」
「泣いてるだろうが!俺のコートで涙を拭くなってば」
「だってあんなこと言われたら、誰だって……」
「お前が言われた訳じゃないだろ。ちょ、鼻水だけはやめろよ?」
「私、今すぐ彼にイエスって伝えたい!」
「なんでお前が!」
大通りを抜けて路地裏に入ると、大地はようやく花穂の手を離す。
「ほら、顔拭け」
そう言ってネイビーのハンカチを差し出した。
「浅倉さん、ハンカチ持ち歩いてるんですか? すごいですね」
「持ってないお前がおかしいんだろ! まったく。ほら、早く拭け」
「あ、大丈夫です。もうすっかり乾きましたから」
「……さては全部俺のカシミアのコートに吸わせたな」
「これ、カシミアですか? どうりで肌触りが良かった訳ですね。いいなー、カシミア」
スリスリとコートをなでる花穂に、はあ……と大地は深いため息をつく。
「なんか、もう、疲れた。帰るぞ」
「店長に挨拶しなくていいんですか?」
「あんなに忙しそうなんだ。迷惑なだけだろ。また日を改める」
「そうですね」
大地は車道に出るとタクシーに手を挙げて止め、慣れた様子で花穂のマンションの場所を運転手に伝えた。
「ありがとうございます、浅倉さん。タクシー代は会社でお支払いしますからね」
「だから大きな声で言うなってば!」
大地はこめかみを押さえながら窓枠に肘をつき、最後まで無言を貫いていた。
店に入ろうとするカップルにドアマンがうやうやしく頭を下げ、店内の混雑の為、入場を制限していると話している。
「クリスマス前だからな。一番忙しい時期なんだろう」
「なるほど。でもここまでくると、もはや店内の装飾なんて誰も見てくれなさそうですね」
「そんなことはない。外からだと分かりづらいけど、中にいればたくさんの煌めきが目に飛び込んでくる。それにショーケースも、クリスタルが華やかにジュエリーを引き立てている」
「そうだといいなあ」
ガラス越しに店内の様子を見守っていると、通りに面したディスプレイに目を留めた女の子が隣の彼の腕を引いた。
「わあ、見て。この指輪すごく素敵。大人っぽくて高級感があって、憧れちゃうな」
「うん、いいね。じゃあエンゲージリングはこれにしようか」
「えっ!」
女の子は驚いたように目を見開いたあと、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
(ええ!? ど、どうしたのかしら)
身体を固くして横目で様子をうかがっていると、彼が優しく女の子を抱きしめた。
「返事は指輪を贈った時にちょうだい」
「うんっ!」
女の子はギュッと彼に抱きついて胸に顔をうずめている。
「ははっ、これでノーって言われたら立ち直れないな」
彼の言葉に、ようやく花穂は理解する。
(こ、これは、もしや。そういうシチュエーション? なんて素敵なの、ドラマみたい)
真っ赤になって固まっていると、大地が繋いだ手を引いて歩き出した。
「おい、いくら感激したからって泣くなよ。いい迷惑だ」
「な、泣いて、なんか、ううっ」
「こら! 人の服で顔を拭うな」
「大丈夫です、泣いてませんから」
「泣いてるだろうが!俺のコートで涙を拭くなってば」
「だってあんなこと言われたら、誰だって……」
「お前が言われた訳じゃないだろ。ちょ、鼻水だけはやめろよ?」
「私、今すぐ彼にイエスって伝えたい!」
「なんでお前が!」
大通りを抜けて路地裏に入ると、大地はようやく花穂の手を離す。
「ほら、顔拭け」
そう言ってネイビーのハンカチを差し出した。
「浅倉さん、ハンカチ持ち歩いてるんですか? すごいですね」
「持ってないお前がおかしいんだろ! まったく。ほら、早く拭け」
「あ、大丈夫です。もうすっかり乾きましたから」
「……さては全部俺のカシミアのコートに吸わせたな」
「これ、カシミアですか? どうりで肌触りが良かった訳ですね。いいなー、カシミア」
スリスリとコートをなでる花穂に、はあ……と大地は深いため息をつく。
「なんか、もう、疲れた。帰るぞ」
「店長に挨拶しなくていいんですか?」
「あんなに忙しそうなんだ。迷惑なだけだろ。また日を改める」
「そうですね」
大地は車道に出るとタクシーに手を挙げて止め、慣れた様子で花穂のマンションの場所を運転手に伝えた。
「ありがとうございます、浅倉さん。タクシー代は会社でお支払いしますからね」
「だから大きな声で言うなってば!」
大地はこめかみを押さえながら窓枠に肘をつき、最後まで無言を貫いていた。



