クリスマスシーズンの街並みはカップルの姿で溢れ、バレンタインのイベントにも大いに参考になりそうだ。
花穂は仕事終わりに、ふらりとデートスポットに立ち寄るのが日課になっていた。
(やっぱりなんと言っても写真映えするフォトスポットよね。あとは二人の記念になるような、願いごとを書いて吊るせるような……って、それだと七夕か。うーん、赤いカードにお互いのメッセージを書くのはどう? 大きな白いハート型のボードを設置しておいて、赤いカードに愛のひとことを書き込むの。それを貼っていったらだんだんハートが赤くなって、全部埋まれば赤いハートが完成!って)
その時ボスッと誰かの背中にぶつかり、花穂は「痛っ」と鼻を押さえた。
「すみません、ぼんやりしていて」
「いや、こちらこそ……って、青山?」
「え? 浅倉さん! どうしたんですか、こんなカップルで賑わう街におひとりで」
「銀座の例のジュエリーショップに様子を見に行く途中だから、いわば仕事だ。そう言うお前は誰かと一緒なのか?」
「いえ、ひとりですけど。でも私もデザインの参考にあちこち見て回ってるので、いわば仕事です」
ツンと澄まして言うと「往生際の悪い」と大地が呟く。
「なんですって?」
「いや、別に。じゃあな」
抗議する暇もなく去って行く後ろ姿を、むーっと唇を尖らせて見送る。
(いいもん。だってほんとにこれも仕事のうちなんだからね)
そう思い、くるりと反対方向に向かって歩き始めた時だった。
「彼女ー、なになに? さっきの男にフラれたの? それなら俺とデートしようよ」
「は?」
いきなり見知らぬ男に肩を抱かれて、花穂はキョトンと顔を見上げる。
「あの、私になにかご用ですか?」
「そう、君にご用だよー。どこに行こうか」
強引に歩き始める男に花穂は足を踏ん張るが、抵抗も虚しく身体ごと抱き寄せられた。
「やめてください」
「君だってこんなカップルだらけの中、ひとりぼっちは寂しいでしょ? つき合ってあげるって言ってんの」
「そんなこと頼んでません!」
必死で身をよじるが、力では敵わない。
このままどこかに連れて行かれるのかと怖くなった時、いきなり横から手が伸びてきて、グイッと花穂を男から引き離した。
「人の女に手出すんじゃねえよ」
え?と顔を上げると、花穂は大地の腕の中に抱きしめられていた。
「浅倉さん!」
男は「チッ! なんだよ」と舌打ちして去って行く。
大地は腕を緩めて身体を離すと、花穂を見て小さくため息をついた。
「お前な、ナンパされてもついて行くんじゃない。危ないだろ」
「違います! ついて行ったりなんてしません。男の人って力が強くて、抵抗しても敵わなくて……」
強引に引っ張られた時の恐怖が蘇り、花穂はうつむいて涙をこらえる。
(こんなことで泣くつもりなんかなかったのに)
唇を噛みしめた時、右手をギュッと大地に握りしめられた。
「俺から離れるなよ」
「……はい」
大勢のカップルが行き交う中を、手を繋がれたまま歩き出す。
「それで、どこに行くつもりだったんだ?」
「えっと、特に決めてませんでした。恋人たちが喜びそうなフォトスポットがないかなって」
「ふうん。なら、ジュエリーショップにつき合ってもらえるか?」
「はい。私も実際の様子を見に行きたいです」
「分かった」
そのまま10分ほど歩き続けてたどり着くと、店内はたくさんのカップルで賑わっていた。
花穂は仕事終わりに、ふらりとデートスポットに立ち寄るのが日課になっていた。
(やっぱりなんと言っても写真映えするフォトスポットよね。あとは二人の記念になるような、願いごとを書いて吊るせるような……って、それだと七夕か。うーん、赤いカードにお互いのメッセージを書くのはどう? 大きな白いハート型のボードを設置しておいて、赤いカードに愛のひとことを書き込むの。それを貼っていったらだんだんハートが赤くなって、全部埋まれば赤いハートが完成!って)
その時ボスッと誰かの背中にぶつかり、花穂は「痛っ」と鼻を押さえた。
「すみません、ぼんやりしていて」
「いや、こちらこそ……って、青山?」
「え? 浅倉さん! どうしたんですか、こんなカップルで賑わう街におひとりで」
「銀座の例のジュエリーショップに様子を見に行く途中だから、いわば仕事だ。そう言うお前は誰かと一緒なのか?」
「いえ、ひとりですけど。でも私もデザインの参考にあちこち見て回ってるので、いわば仕事です」
ツンと澄まして言うと「往生際の悪い」と大地が呟く。
「なんですって?」
「いや、別に。じゃあな」
抗議する暇もなく去って行く後ろ姿を、むーっと唇を尖らせて見送る。
(いいもん。だってほんとにこれも仕事のうちなんだからね)
そう思い、くるりと反対方向に向かって歩き始めた時だった。
「彼女ー、なになに? さっきの男にフラれたの? それなら俺とデートしようよ」
「は?」
いきなり見知らぬ男に肩を抱かれて、花穂はキョトンと顔を見上げる。
「あの、私になにかご用ですか?」
「そう、君にご用だよー。どこに行こうか」
強引に歩き始める男に花穂は足を踏ん張るが、抵抗も虚しく身体ごと抱き寄せられた。
「やめてください」
「君だってこんなカップルだらけの中、ひとりぼっちは寂しいでしょ? つき合ってあげるって言ってんの」
「そんなこと頼んでません!」
必死で身をよじるが、力では敵わない。
このままどこかに連れて行かれるのかと怖くなった時、いきなり横から手が伸びてきて、グイッと花穂を男から引き離した。
「人の女に手出すんじゃねえよ」
え?と顔を上げると、花穂は大地の腕の中に抱きしめられていた。
「浅倉さん!」
男は「チッ! なんだよ」と舌打ちして去って行く。
大地は腕を緩めて身体を離すと、花穂を見て小さくため息をついた。
「お前な、ナンパされてもついて行くんじゃない。危ないだろ」
「違います! ついて行ったりなんてしません。男の人って力が強くて、抵抗しても敵わなくて……」
強引に引っ張られた時の恐怖が蘇り、花穂はうつむいて涙をこらえる。
(こんなことで泣くつもりなんかなかったのに)
唇を噛みしめた時、右手をギュッと大地に握りしめられた。
「俺から離れるなよ」
「……はい」
大勢のカップルが行き交う中を、手を繋がれたまま歩き出す。
「それで、どこに行くつもりだったんだ?」
「えっと、特に決めてませんでした。恋人たちが喜びそうなフォトスポットがないかなって」
「ふうん。なら、ジュエリーショップにつき合ってもらえるか?」
「はい。私も実際の様子を見に行きたいです」
「分かった」
そのまま10分ほど歩き続けてたどり着くと、店内はたくさんのカップルで賑わっていた。



