めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】

ホテル フィオーレのセレモニーが無事成功に終わり、花穂はホッとしてリラックスしながら日々の業務に戻っていた。

次に取り組むプロジェクトは、今のところまだなにも話はない。

やり残した書類の提出や、他のメンバーの手伝い、そして色んな資料やデザインを集めてインプットする期間にした。

すると12月に入ってすぐ、大地がクリエイティブ部にやって来た。

「青山、ちょっといいか?」
「浅倉さん! はい、今行きます」

廊下に出ると、大地がいきなり予定を聞いてきた。

「今日の夜、暇か?」
「え、それは色んな答えがあります」
「は? どういう意味だよ」
「合コンに駆り出されるなら、のっぴきならない用事があって行けません。カラオケに誘われるなら、残業するので残念ながら。飲みに行くぞってことなら、メンバー次第で……」
「ああ、もう、ややこしい! 仕事だ、仕事」
「え、仕事?」

プロデュース部の仕事を手伝えということだろうか?と首をひねる。

「別に無理に来いとは言ってない。よかったら俺の現場に一緒に来るかって思っただけだ」
「浅倉さんの現場って、どこですか?」
「4年前から担当してる、銀座のジュエリーショップ。20時の閉店後にクリスマスの装飾をしに行く」

えっ!と花穂は驚いた。

「無理しなくていいぞ。夜遅くなるしな」
「行きます! 行きたい! 行かせてください!」
「なんだよ、調子いいな。じゃあ定時になったらロビーに下りて来い。軽く食事と打ち合わせしてから向かう」
「かしこまりました!」
「じゃあな」

軽く手を挙げて去って行く大地の後ろ姿を見送りながら、花穂は早くもわくわくする。

(あのお店の内装、じっくり見たかったんだ)

言わば自分にとってはデザイナーの原点とも言える大切な場所。

とは言え、なにせ超がつくほど高級なブランドだ。

ふらっと立ち寄るのも気後れするし、ましてや買いたくても手が出ない。

見かけても、通り過ぎざまにちらっと目をやる程度だった。

(季節ごとのディスプレイも素敵だなって思ってたけど、まだ浅倉さんが担当してたんだ。今夜はクリスマスの装飾か、楽しみ!)

どうにもニヤニヤが止まらず、「花穂、なんか不気味だよ?」と周りに言われながら、その日の仕事を終えた。