めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】

「ううー、眠い。足がフラフラする」

片づけを終えると、花穂はおぼつかない足取りで客室に向かう。

「青山、眠いんじゃなくて酔っ払ってるんだ」
「ええー? でも目が閉じちゃう……」
「ああ、じゃあ眠気だな」
「なに、どっちなの?」

大地の言葉に、花穂の頭はますます働かなくなった。

「それでは、おやすみなさい」
「青山、そこは別の部屋だ。お前は俺たちとこっちの部屋」

そう言って客室に促す大地を、花穂はキッと振り返る。

「私、男の人の部屋に簡単に入るような女じゃないんで」
「って、待て! だからその部屋は別の人の部屋だ。それこそ男だったらどうする?」

隣の部屋のドアに手をかける花穂の肩を、大地は慌てて抱き寄せた。

「ほら、早く入れ」
「やだー! 私、こう見えて操を守る純真無垢な……」
「うるさい!」
「ふがー!」

口を塞がれて強引に部屋に連れ込まれると、いつの間に入っていたのか、リビングのソファで大森が大の字に寝そべっていた。

「ああ、もう、酔っぱらいが二人も……」

ため息をつく大地に、花穂は背伸びをして頭をポンポンとなでる。

「よくがんばりましたね。えらいえらい」
「……おい。俺は頭ポンポンされても嬉しくないぞ」
「そうなんですか? じゃあ、もう少しお酒飲みましょうか」
「なんでそうなる!?」

花穂は冷蔵庫から缶チューハイを2本出すと、大地の腕を取って大森と反対側のソファに並んで座る。

「お疲れ様でした。乾杯!」

プシュッと缶を開けると、花穂はゴクゴクと一気に半分ほど飲んだ。

「はあ、美味しい」
「それ1本で終わりにしろよ?」
「はーい。あ、ナッツも持って来ようっと」
「いい、俺が取りに行く」

立ち上がった大地が、小皿に載せたナッツやチーズを手に戻って来ると、二人でしんみりと今夜のセレモニーを振り返った。

「私、こんなに充実感を味わったのは初めてです。織江さんがいなくて、最初はすごく不安でした。だけど浅倉さんが睨みを効かせてくれたおかげで、勇気が湧いてきたんです」
「なんだそれ。俺がいつ睨みを効かせた?」
「ええ? 忘れたんですか?」

花穂は人差し指で両目を横に引っ張り、低い声を出す。

「失敗が許される仕事なんてない。そんな見方で仕事を区別するな」
「……それ、まさか俺の真似とか言うなよ?」
「似てるでしょ?」
「似てるか!」

ふふっと笑ってから、花穂は視線を落としてしみじみと語り出した。

「とても大切なことを教わりました。この言葉はずっと忘れません。それに本当は私、途中で逃げようとした時がありました。私のやりたいことが、やってはいけないことのような気がして……。自然に勝るものはないのに、その自然を汚そうとしているのかもしれないって、自分で自分を追い詰めて……。あの時浅倉さんが来てくれなかったら、私は今ここにはいなかったかもしれません」

大地はじっと花穂の言葉に耳を傾ける。

「浅倉さん、本当にありがとうございました。私、いつか浅倉さんに認めてもらえるようなデザイナーになりますね」

そう言うと、大地は少し驚いた表情を浮かべてから、しっかりと頷いた。

「ああ、お前なら必ずなれる」
「はい。また浅倉さんとプロジェクトでご一緒できる日を楽しみにしています」

花穂は屈託のない笑顔で大地にそう伝えた。