めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】

「相変わらずうるさいな」

振り返った花穂は、入って来た背の高い男性に驚いて目を見開く。

(この人、もしかしてあの時の?)

忘れもしない4年前の春。

引き寄せられるように魅入っていた銀座のジュエリーショップで、後ろから声をかけられた時のことを思い出した。

今と同じ艶やかな低音ボイスと、モデルのようなスタイルの良さ。

あの時より髪型は少しスッキリと、そして整った顔立ちはより一層キリッと端正になった気がする。

(間違いない、この人だ。私の人生を大きく変えてくれた人)

大げさではなく、花穂は本当にそう思っていた。

再会できたことに感慨深くなり、言葉もなくしばしその男性を見つめる。

(なんて声をかけようか)

そう思いながらドキドキしていたが、やがて、あれ?と違和感を感じた。

「織江、大森、時間の無駄だ。早く打ち合わせ始めろ」

ぶっきらぼうにそう言うと、ドサッと資料をテーブルに置いてから斜めに椅子に腰を下ろし、仏頂面のまま居丈高に両腕を組んだ。

(こんな人だったっけ?)

4年間ずっと花穂の心の中にいたのは、優しく笑いかけてくれるかっこいい憧れの人。

チェレスタに入社できれば、いつかまた会えるかもしれない。
その時は伝えよう。
あなたのおかげで、私は夢を掴めましたと。

そう思っていたのに、いざ本人を目の前にして、花穂の気持ちはしゅるしゅるとしぼんだ。

(美化しすぎちゃってたのかな)

とにかく挨拶しなければと近づく。

「あの、初めまして。クリエイティブ部の青山と申します。どうぞよろしくお願いします」

するとなぜだか、大森が横から手を伸ばして花穂と握手した。

「よろしく! 俺は君のヒーロー、弘和くん。青山なに子ちゃん?」
「はっ!?」

思わず固まっていると、織江がベリッとばかりに大森を引っぺがした。

「大森、セクハラ!」
「どこがだよ? ビジネス上の握手だろ?」
「相手が嫌がったらセクハラなの!」
「嫌がってないよ。な? 青山ちゃん」

その時またしても低い声が響いた。

「いつまで待たせる気だ? 俺の時間を5分奪った」

織江は、やれやれと振り返る。

「5分は大げさよ、大地」

この人がやり手のプロデューサーの浅倉 大地さんか、と花穂は心の中でひとりごつ。

「とにかく早く始めろ」
「分かったわよ。大森は座って。花穂、始めてくれる?」

はい、と織江に答えた声は、大森の「花穂ちゃんかー!」という声にかき消された。

「よろしくねー、花穂ちゃん」
「は、はい。それでは始めさせていただきます」

小さく頭を下げると、花穂はプロジェクターに映し出した画面を見ながら説明を始めた。