めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】

「わあ、皆さん華やかですね。若い女性が半数くらい?」

バックヤードから顔を覗かせて、花穂がドレス姿の女性客に目を輝かせる。

「綺麗なお姉さんがいっぱい」
「ああ。ホテル セレストは年輩の人に好まれる老舗ホテルだけど、フィオーレは女性をターゲットにしてるからな。このセレモニーも、旅行会社や雑誌のライターの女性を中心に招いたらしい」
「そうなんですね。喜んでもらえるといいなあ」

花穂は祈るように両手を組んでゲストの様子に目をやる。

その隣で大森が、キョロキョロとせわしなくホールを見渡していた。

「おおー、可愛い子がいっぱいだ。君のハートを撃ち抜いちゃうぞー。えーい」

バシッと音がして振り返ると、大森が女の子のハートを撃ち抜いた音ではなく、大地に頭をはたかれた音だったらしい。

「いってーなー、大地。なにすんだよ?」
「ふざけてないで仕事しろ」
「してるよ。俺のテクニックで会場中の女の子を堕としてやるさ。見てろよー」

メラメラと闘志をみなぎらせて、大森はポジションに向かう。

「開始5分前だ。準備はいいな?」

聞かれて花穂は、大きく大地に頷いた。

「バッチリです」
「よし、いこう」

パーテーションで区切られた、機材の置かれたテーブルの前に3人並んで立つ。

「開始5秒前。……3、2、照明とBGMダウン。プロジェクションマッピング、スタート」

大地の合図にあわせて、大森がパソコンを操作した。

スッと暗くなり、ざわめきが消える場内。

次の瞬間、華やかな音楽と共に前方のスクリーンがきらびやかに輝いた。

明るい光が射し込む中、次々とカラフルな花が咲いていく。

画面いっぱいに花が溢れると、ひと筋の光がサラサラと文字を描いた。
と同時に、ナレーションの声が響く。

『Welcome to the blooming moment of Hotel Fiore.』

パッと画面が弾けて、今度は制服姿のスタッフの笑顔の写真が、花に囲まれて流れ始めた。

『ようこそ!』と誰もがにこやかにゲストに語りかける。

次に、ホテルのガーデンやプール、チャペルやレストラン、客室なども紹介された。

どんな場所にも、美しい花が添えられている。

やがて前方スクリーンを飛び出し、風に吹かれたかのように、花がパーッとホールの天井に広がった。

「わあっ……」

ゲストが声にならないため息をもらしながら目で追うと、頭上に咲いた花束から光が放射線状に散らばった。

と、次の瞬間。

「えっ、うそ!」

ゲストがテーブルに置かれたフラワーアレンジメントに目をやって驚く。

まるで魔法をかけられたように、花が光を帯びて色づいていた。

「なんて綺麗……」

照明を落としたホールに浮かび上がる、光の花と人々の笑顔。

その光景に、花穂は胸を打たれた。

(幸せと希望がここに溢れてる……)

こぼれそうになる涙をこらえ、目尻をそっと指で拭った。

やがて天井の映像は周囲の壁にも広がり、ホール中が一面の花で埋め尽くされる。

ふわりとかすかな風と共に、芳しい花の香りも流れてきた。

「わあ、まるで花園の中にいるみたい」

うっとりと呟くゲストの言葉が聞こえてきた。

ここが部屋の中だとは思えないほど、自然を感じる演出。

それは大地のプランニングだった。

「五感を使って花の魅力を感じてほしい」

そう言って、映像だとは思えないほど美しい花園の風景を創り出していた。

(本当に素敵、浅倉さんの演出)

ふわっと花穂の前髪が揺れ、花の良い香りに思わず息を吸い込んだ。

最後に、手にかごを持った5人の女の子たちが、ゲストのテーブルに小さな花束を配って歩く。

その足跡に輝く花が生まれて、また人々は驚きの声を上げた。

BGMが盛り上がり、太陽の光が隅々まで行き渡るように前方のスクリーンが明るく輝いて、セレモニーを締めくくった。